COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第26回:隅田川発、ギャラクシー・エクスプレスの謎
パルコキノシタ
Date: April 13, 2006

春が唐突にやって来たので最初は桜を見に行くはずだった。

 

浅草へ到着してなんかやっぱり桜の奇麗なだけじゃつまんないのと、自分に桜の美を伝えきる文章力は最初から無かったのを思い出し、ネタを変える事に。アサヒビールのウンコが見える橋の袂に目をやると、なにやら不思議な形の船がいる。たしか2年前から松本零士デザインの水上バスがウンコ中、否! 運行中と聞いたがアレかな。

 

だが行ってみて愕然となった。花見客が多過ぎて風情も何もない。しかも数百人の行列で、搭乗2時間待ち。「だめだ、今の戦力では、この艦に搭乗することは出来ない」と宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長の声マネをしながら撤退を余儀なくされる。

 

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翌日、HPで色々と情報収集した。あの艦の名前は「ヒミコ」(卑弥呼ね)。涙の雫をイメージしてデザインされたそうだ。見所は室内の光学迷彩のようなイルミネーションで、もしかしたら、窓の空の色とのコントラストがジェームズ・タレルの『House of Light』のように見えるのかもな! なーんて。夜の照明付き運行はかなりお薦めだそうなので期待に胸を膨らませ、さらに翌日、今度はゆりかもめ線を使い、お台場公園側から搭乗する事にした。フジテレビの真下の海岸が船着き場。今度こそ乗れるのか?

 

「実は、夜のイルミネーション便はときどき運行してるみたいだけど、別会社がやってるので詳しい事はわかんないです」

えーっ。っていうか、自社HPで夜の運行がオススメって書いてあるじゃん!

「あー、うちも昔やってたんですけどね」

って、キターーーーー! たった2年でこの寂れよう。場末の温泉街じゃないんだからもうちょっと親切な対応頼むよ。

「照明は、夕方に乗れば少し暗いから見えるかも……ですけど」

 

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そこで、16:50お台場海浜公園発、日の出桟橋行き最終便に搭乗した。先日の浅草では超満員だったにも関わらず、今回、乗客はなんと4人。こども、母親、おばはん、オレだ。さらによせばいいのにスチレンボード状態のメーテルと鉄郎と車掌がお出迎え。だが船内は超快適、途中、スネ夫の声(車掌の声でもある)や、お蝶夫人(メーテルの声でもある)の声でガイドアナウンス。これまたあり得ない80年代アニメブームの再来がたまんない。既に移動の為の船ではなく遊園地状態で、もしもカップルが江國香織原作の映画『東京タワー』のワンシーンに憧れて乗り込んだ日にゃあ、照明も見えなければ、いきなり999の車掌にちびっ子扱いされるのがきっとたまらないだろう。窓は完全密閉なのであまり爽快感はないが、景色は確かに近未来的。そして一人物思いにふけるおばはん。おばはんは靴を脱ぎ足を椅子に投げ出している。あんたがメーテルだ! リアルメーテル発見〜!

 

することないので人間の車掌に「HPで高輝度LEDをアピールしておきながらなぜ点灯しない」とクレームをつけたら、ぽちっと部屋の明かりをつけるが如く艦内の全照明をつけてくれた。つーか客の要望次第で電気をつけたり消したりしてるようだ。「でも完全な夜にならないと見えないんです」

 

日の出桟橋に到着後、やはり夜の「ヒミコ」に乗りたいと案内所に問い合わせた。

「その便は、出てるという噂は聞いた事があります」

「ハァ?」

「うちとは別会社なんですよ」

「? だってここ案内所でしょ? 知らないの?」

「船は同じだけど、知らない会社のやっている事ですから。しかも上からなんの連絡もないもんですから」

「それを客の僕に話してどーする」

「そうですよね」

「公式HPに夜の便がお薦めって書いてあったから来たんですけど」

「あー、そういう情報も現場には一切連絡ないんですよ」

なんかもめてると思ったのか、ぞろぞろ会社の人間が集まってきた。そのうちネクタイしめてる人が現れて、
「今、上の方に聞いてきますからちょっと待ってください」

待つ事5分。

「夜の運行は別会社だけど、一応運行してました。ただ、昼の運行は760円とかそこらで乗れますが、別会社のそれは木金土のみで、料金も2500円くらいします」

うわっ、高っ! と思ったが、その別会社の便ではお酒とかもOKなのでその料金なんだそう。鳴りもの入りで始まった松本零士号は、たった2年の間に色々あったみたいだ(汗)。

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

ぱるこ・きのした/1965年徳島県生まれ。漫画家、芸術家。教育家。股間で絵を描く表現に端を発し、全身を使った様々なパフォーマンスを国内外でゲリラ的に行い、今では世界中の大規模展覧会の常連ゲリラアーティストとなる。異なる文化圏の世代間の人々と言語を超越した懇親を行う事を作品化している。主な作品に『絵を結婚させるワークショップ』『なぐり描き』『おむすび1ユーロ』『緊急カラオケ会議』映像作品は『特撮ワークショップ』『十日町防衛隊』著書に『漂流教師』『教育と美術』がある。ミクシイネームは公園の木の下。www.digipad.com/digi/parco