COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第24回:駅の内と外【前編】
有馬純寿
Date: March 15, 2006
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2月11日にオープン以来、雑誌やテレビをはじめ各メディアの注目を集め、いまだに連日多くの人が詰めかける表参道ヒルズだが、表参道でもうひとつの新名所(?)となりつつあるのが、昨年12月2日にオープンした「エチカ表参道」だ。要は東京メトロの表参道の駅構内を26のショップや飲食店を誘致しリニューアルしただけなのだが、3本の地下鉄が乗り入れる大きな駅にも関わらず、どちらかといえば暗めの印象があった旧表参道駅が「パリのイメージ」がコンセプトの小洒落たショッピングモールに大変身したわけだ。テーマカラーのショッキングピンクとショップのほとんどがフランス語の店名なのも相まって、「少し前にリニューアルしたパリの北駅(Gare du Nord)みたーい」と言ったOLさんがいたかどうかは定かではないが、たしかにおフレンチムードがむんむんの空間となっている(施設名もスピノザかと思いきや駅の地下でエチカとのこと、がっくし)。

 

で、このエチカの特徴は、駅の施設内だけでなく改札の内側にもキヨスクや立ち食い系とは異なる本格的なショップがあることだ。いわゆる駅ビルみたいなものから発展し、駅そのものに商業施設をインテグレートする手法は最近の都市計画ではよく見られるし、改札内にもいろいろなショップがあるのは都市部の駅では珍しくもない風景ではあるが、それでもこれまでのものはじっくりショッピングするとか午後のブランチを、って感じではやはりなかった。


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それをさらに進めた感じなのが大宮駅と品川駅内の「ecute」。こちらも微妙な施設名であるのが残念なのだが、品川には46もの店が立ち並び、もはや駅の中にいるというよりデパートにいる印象。さすがに生鮮食料品は売ってないが各種の総菜屋や菓子店のほか、3軒の本格的なレストラン、眼鏡屋やデザイナー系文具ショップまであるほか宅配サービスもやっている。そんな人はいるかどうかわからないがecuteの利用パンフには「定期券や乗車券をお持ちでないお客さまは、券売機で入場券(130円)をお買い求めの上、ご入場ください。」とある。なるほど入場料のいるデパートでもあるわけだ。

 

どこの駅も似たようなこぎれいな景観となり、駅ごとの個性がなくなりそうな危惧はあるものの、こういったハイブリッド化はもっと雑多になるくらい際限なく進んでいったほうが駅も街もおもしろくなると思う。移動も楽だし(笑)。飲食店やファッション系など常識的な店だけでなく、「駅前留学」ならず「駅内留学」とか、病院、行政の出張所などなど建築のコンペ案にでてきそうなもの、さらには駅内墓地とかもっとミスマッチなものを交通機関にガンガン入れて都市がどうなるのか観察してみたい。いっそのこと駅になにかをインテグレートするのではなく、逆にすべての店や施設が交通機関とシームレスになっている、バラードの小説のような都市も案外いまや起こりうるのかもしれない。

 

そのとき都市生活者には、いまどこにいるかをすばやく認識する能力が要求されることなるに違いない。実際初めてecuteのレストランで食事した帰りに、ほろ酔い気分もあって電車にのるために改札を探してしまった。もう改札のなかなのに(笑)。

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

ありま・すみひさ/1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、即興演奏からCD、サウンドインスタレーションまでジャンルを横断する活動を展開。同年生まれのアーティスト集団「昭和40年会」など美術家とのコラボも多数。国内外の展覧会への参加も多い。ジョン・ケージの『Europera 5』の日本初演など、最近は現代音楽の仕事が増えつつある。(Portrait: Matsukage Hiroyuki)