COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第23回:いざ箱根へ【後編】
松蔭浩之
Date: February 15, 2006
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車窓より、後方から高速で未来が押し寄せ過去と化していく感覚?!

ロマンスカー乗車の秘訣。いや、鉄則から続きを始めよう。それは、なにがなんでも「最後尾」の席をリザーブするということである。

 

勢い勇めば最前席とはやるところを、あえて一等後ろを陣取るのだ。旅先へ背を向け、旅立った大都会・新宿の高層ビルやらNTTのノッポビルから無理矢理引き離されてゆく己を自覚しながらフン反り返るその態度。そこで座った姿勢のままで、予測しえなかったこれからの未来が高速で後方から立ち現れ、即座に過去へと変貌するさまを確認するのだ。わかるかしら? 実際体験しなければその醍醐味はわからないだろう。このロマンスカーのパノラミックな車窓に展開される一大絵巻を体験することのみだけでも、新宿>箱根湯本の旅は充分に有意義であると私は確信する。ビデオで撮影して、今度は逆再生してみれば、さぞ面白いだろうと思うのだが、面倒臭がりの私はいまだ試みておらぬ。


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あまりに渋すぎな福住楼の玄関
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入浴後、夕食を待ちつつ一服

興奮覚めぬまま、箱根に到着。お宿は湯本温泉から600mほど上がった、早川沿いの温泉エリア箱根七湯のひとつ、塔之沢の入口で静かに構える「福住楼」。明治23年創業、福沢諭吉が通ったことでその名になったという、今では珍しい木造3階建て、全館国の登録有形文化財という大変有り難い宿だ。無論老朽化は進むものの、磨き抜かれた板の間や階段欄干の光沢素晴らしく、襟を正したい気持ちになる。なんにしても、モースト・コンテンポラリーからとたんに浪漫派モダニズムの世界へタイムスリップ。私達が予約した一等安い部屋「桔梗」は、一泊二食付きで15,900円なり。これで本物の温泉にいくらでも浸かれて、ボケッとしていても食事がジャンジャン運ばれてお布団敷いたり畳んだりしてくれるワケだから、言うことなし。お風呂について、食事について詳細を綴ると長くなるので割愛させてもらうが一言、パーフェクト! 今までで一番美味しい夕食を心底堪能した。流石、嵐山光三郎さんの推薦ナンバー1だけある、なんて一般ピープル的感想でここは締める。

 

ところで私は若い頃、旅館に婿養子に入ることを本気で考えたことがある。旅館の朝食が殊の外大好物だからだ。結局、それは自分で毎朝こさえることに落ち着いて今にいたるが、なによりも楽しみなその朝の膳もまた完璧だった。午前10:00チェックアウトを済ませ、湯本まで徒歩で下って小田急に乗り東京へ。また当たり前のように昼から仕事開始の通常生活に戻る。ということでそろそろ結句。


期待を上回る素晴らしい料理の数々!

都内で仲間と食事して新宿ゴールデン街やら麻布やら徘徊しながら呑み流し、終電逃してタクシーで帰宅してグッタリするようなことでもこの旅と同じくらいの値段を払うことに比べれば、これは贅沢というよりむしろ、普段の生活に普通に取り入れてもいい行いではないかな。

 

<前回出題のクイズの答え>
箱根好きの人はすべて、犬好きである。
なんでか。「はこね」は「ねこは」の反対だから!!!!!
40なりたてのオヤジギャグも冴える、見事な湯治であった。

箱根塔ノ澤温泉「福住楼」
住所:〒250-0315 神奈川県箱根町塔ノ澤74
TEL:(0460) 5-5301 FAX:(0460) 5-5911
E-mail:
昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

まつかげ・ひろゆき/1965年福岡県生まれ。88年大阪芸術大学卒業。現代美術家。90年アートユニット「コンプレッソ・プラスティコ」でヴェネチア・ビエンナーレ・アペルト部門出展。以後個展を中心に国内外で活動。写真、パフォーマンス、グラフィックデザイン、ライターなど幅広く手掛け、アート集団「昭和40年会」、宇治野宗輝とのロックデュオ「ゴージャラス」でのライブ活動でも知られる。