
昨年末、40X40プロジェクトの締めのイベントで赴いた別府で、はからずも温泉の魅力にハマッてしまったようで、東京に戻り年を越してからも、なんだか心の中に温泉マークよろしくユラユラと湯気が立ったまま。2月頭からの会田誠とのスペインはマドリッドでの2人展の準備やら、あちらこちら学校の講師の仕事やら、断るにも断り切れぬ度重なる新年会などに奔走するまま、早くもグッタリ気味の私。ビタミン剤にウコンの錠剤なんぞを服用しながら我が家の小さき浴槽に入浴剤ぶちまけジトッと40になりたての肉体を浸し、「元気になれ元気になれ」と唱えてみるが無論埒あかず。さらに気付けば、長年連れ添う大事なガールフレンドほったらかしのままの数ヶ月。己のあまりの甘ちゃんでずさんな精魂にあきれる。いかんいかん。

ということで、今回の徘徊の目的はひとつ、「彼女をねぎらう旅に出る〜温泉編」と決める。
であるのだが、その目的地をどこにしたものか。福岡や北九州エリアの人にとっての癒しの場所でありリゾートスポットが別府であったように、東京人にとってのそれは、熱海修善寺伊豆下田、草津鬼怒川那須塩原などよりどりみどり。左様、選択肢の豊富さこそ大都会生活の醍醐味である。が、ここは迷わず箱根とする。なんだか忙しいのだ時間がない。我が家に隣接し日々騒音で私を悩ませ、最寄りの駅でもある小田急線に飛び乗って、たった一本で最終駅「箱根湯本」まで向うこと、なにはともあれ潔い。
小田急といえばほかでもない「ロマンスカー」だろう。昨年春、9年振りに登場した新型「VSE50000型」にも乗ってみたいじゃないか。
旅館選びはここ数年のテーマ、「漱石ゆかりの宿」に従う。露天風呂だのレディースサービスだのと言わず、ただただ明治大正期から由々しく逞しく閑散とたたずむ老舗旅館にする。よし。ネットで検索してさっさと電話予約をすませて彼女に一言。
「一泊二日で箱根です。仕事お休みとりなさい」。


さて当日。いったん代々木八幡駅から新宿へ向い、まずはお弁当購入。私の旅の始まりは必ず、崎陽軒「お好み弁当」と決まっている。500円でおかずアレコレ量ほどほどでコストパフォーマンス心底納得済。それから午後1:40発のロマンスカーと記念撮影。大胆な言い方を許していただくなら、これが「本日のオレのクルマ」である。見事にオフホワイトでアイボみたいな外観も素敵な新型君は、関西国際空港旅客ターミナルビルの設計をはじめ、世界で活躍されている建築家の岡部憲明氏の手によるもの。内装もデザイナーズホテル風でオレンジ色を基調にシンプルで現代的に仕立てられており、思いのほか豪華さとは異なる合理的なデザインで、「これはこれでなるほどな」と感心する。運賃片道2,020円、所要時間1時間25分、途中停車駅は小田原のみ。これを潔いと叫ばずしてなんという。
さてさて、このロマンスカー乗車に際してもっとも重要なポイントがただひとつある。その講釈は次回にまわすことにして、唐突ながらここで自作のクイズを一つ。
箱根好きの人が必ず飼っているペットは次のうちどれでしょう?
1. 犬
2. 猫
3. ハムスター
答えは次回!
寄稿家プロフィール
まつかげ・ひろゆき/1965年福岡県生まれ。88年大阪芸術大学卒業。現代美術家。90年アートユニット「コンプレッソ・プラスティコ」でヴェネチア・ビエンナーレ・アペルト部門出展。以後個展を中心に国内外で活動。写真、パフォーマンス、グラフィックデザイン、ライターなど幅広く手掛け、アート集団「昭和40年会」、宇治野宗輝とのロックデュオ「ゴージャラス」でのライブ活動でも知られる。