COLUMN

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昭和40年会の東京案内

第14回:新宿の名店
会田誠
Date: August 24, 2005

あいかわらず『東京案内』は気が重い。東京なんて大っ嫌いだし、俗物ライターの真似事するくらいなら舌噛んで死んだ方がマシだし。……と本心を書いたらミもフタもないので前言撤回。さ〜て皆さ〜ん、今回はアタシのアーバンライフを彩る、とっておきの素敵なお店を紹介しちゃうわね〜。

 

新宿駅至近の食堂「長野屋」
「長野屋」店内(1)

都心でゴハンを食べるならココ! っていうのが「長野屋」。なんてったって新宿駅南口を出て東側の階段を降りたらすぐ目の前にあるんだから、超〜便利。新宿なんかでお店を探して歩いたら、それこそ星の数ほどあるから、食べる前に目眩と吐き気がしちゃうでしょ? だからアタシはいつも迷わず長野屋へGO! 徒歩10秒よ。それに店の名前がステキでしょ? 店主は北のほう出身みたいだから、腰が低そうで安心ね。

 

そう思って初めて入ったのが、上京したての頃。そのあと、アタシと同じ北国出身で気の弱い予備校の同級生T君を誘ってみたら、案の定彼も気に入って、リピーターになっちゃって。彼とは切り干し大根をつまみに、1本の瓶ビールをチビチビと分け合いながら、何時間も長居したものよ。あれから22年、バブル期の地上げ屋や駅前再開発の荒波をかいくぐって、よくぞ超一等地のオンボロビルを守り続けたもんだと感心しちゃうわ。外のホコリまみれの食品サンプルも、前払いで買うプラスチック板の食券も、社員食堂みたいなオバちゃんの白いユニホームも、22年間寸分の変化もなし! 客層は、上は窓際サラリーマンから下は軽いアル中までって感じだから、程よいバランスだし。あと、一人客が多いのにテーブル席っていうのも、居心地がいい理由かしら。

 

「長野屋」店内(2)

え、味? 別にとりたてて美味しくはないけど。レンジであっため直しが多いし。値段? サバ焼定食が700円だから、とりたてて安くもないけど。でも外食なんて、手っ取り早く空腹が満たせてゆっくりできれば、それでいいわけだし!

 

他に新宿で行くところといえば、やっぱり「しょんべん横町」になるわね。アタシが好きなのは、一番JRの線路寄りにある居酒屋の(店の名前なんて知らないわよ。似たような店が2つ並んでて、そのどっちでもいいの)2階の窓際の席ね。そこのお座敷の開け放たれた窓から、何本も並走した線路に映るネオンの光を眺めていると、東京の夜景がなんだか「海」に見えてきて。となるとここは「海の家」で、ひっきりなしに往き交う山手線の轟音は「潮騒」……。海の近くで育ったアタシは、マジでちょっと泣けてきちゃうの。運がいいとゴミを漁るネズミの大家族にもお目にかかれるし。

 

え、味? なもん知るか!

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

あいだ・まこと/1965年新潟市生まれ、育ち。父親は学術交流で北朝鮮に招かれ、帰国後息子に「チュチェ思想は素晴らしい」などと語った、そっち系の人。最近はかなり老いが進み、終末思想に取り憑かれている模様。母親はGHQが蒔いたアメリカ流人道主義に洗脳された元・理科の先生。ちょっと演歌の旋律を聴いただけで、面白いくらい激しい拒絶反応を示す。このような非(というよりは反)芸術的環境に育ったため、青年期は反動で芸術至上主義者を目指すが、やはり「蛙の子は蛙」の壁に直面し、変な分裂的性格になってしまう。現在は九十九里浜の近くでゆっくりとフェイドアウト中。