
今まで私は、いくつかパブリックアートと呼ばれる作品を造ってきました。静岡、秋田、札幌、越後妻有などで制作し、東京にも作品があります。今回は私の作品を紹介しながら、東京のパブリックアートについて考えたいと思います。

■Time Garden(西武池袋線大泉学園駅前)
都市、それは建てて変わるもの。
20世紀から21世紀となり、「街」は近代化を迎えました。
100年前、この大泉の「街」はおそらく何もない「村」みたいな状態だったでしょう。
今はビルが建ち、ずいぶん開発されているように見えます。これから将来を考えたとき、この「街」はまた「林」になると思いました。開発された土地に、一瞬、「街」は出来上がりますが、その中に何もない場所を作りたかったのです。この空間には、ただ、大泉の土を入れただけですが、土の中に入っていた種が芽吹き、今では雑草がたくさん生えています。

■Urban fossil(JR中央線立川駅周辺)
1995年設置の比較的初期の作品。よくあるパブリックアートとは違ったものを、と思い、造りました。
地面に埋められているこの作品は、マンホールと同じ素材で作られ、目の部分にはブロンズが入っています。大きさは1.8m×90cmで、10個、歩道にはめこまれています。
都市は建てられては崩され、建てられては崩され、の繰り返しです。
新しく建てられた立川の街もまた、やがて50年ほど経つと崩されていくでしょう。古代ローマやアテネのように、新しい街は古い街の上に造られます。10万年くらい経って、未来の人が遺跡を発掘する時、このデザインが、まさに化石のように出てくることでしょう。

■Tree-Portrait(JR根岸線本郷台駅前)
横浜市のコンペティションで、200人くらいの作品模型の中から選ばれました。
この場所に生えている木と同じ形にシルエットを切り抜いた、彫刻作品です。
それぞれの木の写真を元に、13本の「木」のポートレイトを作りました。
実際の木と、作られた木。
10年近く経った今、その木は成長しているかもしれないし、伐採されているかもしれない。時間と共に、街やそれを形成している木も変わっていくのです。

■おまけ Feijao(北海道札幌市)
札幌にあるこの彫刻作品は、豆(feijao)をモチーフにして作られています。
夏は豆も芽も見えますが、冬はこうして雪に埋もれてしまうのです。
パブリックアートは、季節によっても楽しめる美術作品なのです。
こうしたパブリックアートの作品は、県や市といった自治体などにプレゼンテーションをして、制作、設置されます。日本だけでなく、ニューヨークでも、韓国でも、プレゼンテーションをした企画の7、8割は通りません。なぜならパブリックアートは、安全であることや、市民のためである、という考えを優先して考慮しなければならないからです。
私の住んでいる足立区北千住は、「野外彫刻コンクール」が行われていますが、もう少しマシな作品を増やして、もう少しマシな審査員が必要だと思っています。
1年前に駅前再開発が終わった北千住駅前には、「群れで泳ぐイルカ」の彫刻作品があります。
……アホじゃない? もっとするべきことはあると思います。
東京にパブリックアートは必要でしょうか?
私が都知事や市長なら、必要ない、と答えます。
ヨーロッパの街とは異なり、東京はアジアの街と同じくどこもゴミゴミしています。
情報量があまりにも多いと思いませんか? TOO MUCH!
まずは、駅前のネオンや宣伝といった類の看板を整理しませんか?
そして、すっきりした街に、私、大岩オスカール幸男に作品を作らせてみませんか?
(談/聞き手:藤田千彩)
寄稿家プロフィール
おおいわ・おすかーる・さちお/1965年、サンパウロ生まれ。1989年サンパウロ大学建築学部卒業。主なグループ展: 2002年『アート循環系』(大分市美術館)。2003年『BoaViagem』(宇都宮美術館)。『ジャパン・ライジング』(パームビーチ現代美術インスティテュート)。『旅』(東京国立近代美術館)。2004年『ジャパン・アート・ナウ』(Korea International Art Fair, Seoul)。『国際平和展』(韓国国立現代美術館)。2005年はアリゾナ州立大学美術館で展覧会開催予定。現在、ニューヨーク在住。http://www.oscaroiwastudio.com/