COLUMN

40nen
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昭和40年会の東京案内

第11回:東京にもう一度「たまり場」を
有馬純寿
Date: July 13, 2005

前回、神保町など東京の専門店街について書いたが、専門店街が年々薄くなってきているだけでなく、コアな人々がいつも集まる場所もだいぶ減ってきているように感じてならない。マニアックな店は概して商売下手で長く持たないとか、東京は地代が高いからマコアなショップが郊外やネット上に移行したとか、いろいろな理由があるのだが、そこ傾向は確実に進んでいる。

ショップに限らず90年代の「レントゲン藝術研究所」のような、いろいろな領域からあふれはみ出たエネルギーが集結し、夜な夜ななにかが起きている坩堝のようなスペースも、最近では「スーパーデラックス」などごく限られた例を除けば、あまり見当たらない。また、実験音楽の重要な拠点であった「OFF SITE」のように、残念ながら短命のうちに消えていくものもある(メディアアートの拠点、ICCも……詳しくは16日発売のART iTを)。

世代の変化もあるかもしれないが、僕らの世代の人たちが、そこに行けば誰か「仲間」に会える、そんな場所が東京からどんどん減ってきているのは確実だろう。

 

トラウマリス店内(撮影:大高隆)

さて、今回はそんな東京の貴重な「行けば誰かに会える」たまり場のような店を紹介しよう。

まずは、REALTOKYOでもおなじみの六本木のバー「トラウマリス」。美術関係者を中心にさまざまな人々が集うこの店に行けば、知り合いに出くわさない確立はかなり低い。撮影のために訪れた日も、昔はよく会っていた写真家の大高隆さんに久々に再会、僕が暗い店内の撮影に苦労していると、かわりに写真を撮影してくれた。こういう偶然がなんともうれしい。

東京を代表する現代美術画廊がいくつも入る六本木コンプレックスの中にあるとか、森美術館から歩いてすぐとか、ここに人が集まるもっともな理由があるにはあるが、そんな立地条件を超えた場の雰囲気と人のつながりがここにはある。

 

ガリガリ入り口
入り口だけでなく、店のあちこち怪しさ満載なのだが、今回はあえて一番怪しいトイレだけを。
店の雰囲気はぜひ足を運んで自分の目で見てください。

おつぎは池の上の「ガリガリ」。実はここに夜な夜な友人・知人が集まっていたのは今から10年ほどの前の話で、最近はちょっとご無沙汰ではあったが、いまでも当時の知り合いにあうとつい足を運ぶ店だ。当時まだ若かった、いまをときめく評論家や作家、ミュージシャン、アーティスト、映画関係者などのたまり場で、それこそ毎晩のように通っていた。もちろん飲み代は激安。しまいには飲んでるだけでは飽き足りず、僕らは「ガリガリナイト」なるゴッタ煮的パフォーマンス・イベントを定期的にしかもゲリラ的に開催しだした。あまりメディアにその名があらわれることはなかったが、確実に東京90年代サブカルの拠点のひとつだったのは間違いない。

当然、そんな店は何年も持つとは誰もが思っていなかったが、なんといまも健在で、最近では自主映画の数少ない上映スペース「シネマボカン」という、もうひとつの顔も東京のインディーズ映画関係者の間では知られているらしい。
継続の秘訣はマスターのトミちゃんこと渡辺さんの人徳のなせる業。トラウマリスの盛況ぶりも住吉ママあってのことなのは間違いないし。要は人ですよね。

 

ナディッフ(写真提供:ナディッフ)

最後に紹介したいのが表参道のアートショップ「NADiff」。いうまでもなく東京を代表するアートショップで、ユニークな企画を次々に打ち出すギャラリーを持つ充実した美術書店として広く知られているので、なにをいまさらと言われるかもしれないが、なにしろこの夏、ここを僕ら昭和40年会が祭りの場にしてしまおうと計画進行中なのである。


ミーティング中の松蔭とナディッフ企画担当の野崎さん(彼も昭和40年生まれ、しかも土佐正道と同日!)

というのも、横浜トリエンナーレやBankARTの精力的な活動などもあって、関東のアートというと、どうも横浜に持っていかれた感があるのは、みんなうすうす勘づいているに違いない。そこで、東京にエネルギーのあるたまり場をもう一度と、ナディッフの全面的な協力を得て、お祭り軍団の昭和40年会が『昭和40年会のサマージャンボ夏祭り2005』と題してイベントを行ことになった。

期間中の土日に各メンバーが一日店長を勤め売上を競い合う(これは業界初の試みとのことだが、他のアーティストは誰もやらないだろうからあたりまえか)。各人の1日店長の日にはそれぞれがイベントを行うほか、ギャラリーではソウルでの『40展』よろしく展示も期間中気まぐれに変化していく。Tシャツやポスターはもちろん、手ぬぐいや扇子などアーティストものらしからぬ夏のアイテムのグッズ販売も敢行。

小沢が店長をつとめた初日の7月10日は、公開作品制作やソウルでのイベントの報告会を開催した。次の1日店長は23日に僕、有馬が担当。前身のアールヴィヴァンも含めれば25年以上通ったここのCDコーナーから、中学のころの愛聴盤から最近の気になるCDを一気に紹介するイベントを開催するつもりだ。また展示のほうも8月11日からは大岩オスカール幸男の日本での久々の新作発表も予定している。

この僕らの祭りに、皆の「たまり場」として足を運んでもらい、一緒に東京の夏のアートシーンを盛り上げてもらえたら幸いである。

BARガリガリ/シネマボカン
住所 東京都世田谷区代沢2-45-9 飛田ビルB1F
tel. 03-3481-6997/fax. 03-5478-6889

 

■トラウマリス
港区六本木6-8-14 COMPLEX1F
tel. 03-5411-0220

 

NADIff
東京都渋谷区神宮前4-9-8 カソレール原宿B1F
tel.03-3403-8814
fax.03-3403-8819

昭和40年会 http://www.40nen.jp/

寄稿家プロフィール

ありま・すみひさ/1965年生まれ。エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、即興演奏からCD、サウンドインスタレーションまでジャンルを横断する活動を展開。同年生まれのアーティスト集団「昭和40年会」など美術家とのコラボも多数。国内外の展覧会への参加も多い。ジョン・ケージの『Europera 5』の日本初演など、最近は現代音楽の仕事が増えつつある。(Portrait: Matsukage Hiroyuki)