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Tokyo 4 Weeks

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089:『ビートルズと私』
推薦:宮永正隆
Date: September 27, 2013
『ビートルズと私』 | REALTOKYO
(C)Cinema Libre Studio

会った話だけでも聴く者をときめかせるその存在

ビートルズを愛するシンガーソングライター、セス・スワースキー。彼は82年に(22歳にして)グラミー賞に最年少ノミネートされていたり、オリヴィア・ニュートン・ジョンやセリーヌ・ディオンに曲提供したりしている人物だそうだ。

 

本作は、彼がこつこつ撮りためた「関係者」取材映像をまとめたドキュメンタリー。ビートルズ好きが高じて「ビートルズに会った人」に取材しているその気持ちはよくわかる。その思い出を聴くとき、自分までビートルズに会った気分になり、深く感動できることを知っているからだ。こればかりは「思い出インタヴュー」を体験したものでなければわからない。

 

『ビートルズと私』 | REALTOKYO
(C)Cinema Libre Studio

私事で恐縮だが、規模こそ違えど、私もまったく同様に独りでこつこつとビートルズに会った人々にビデオ取材し続け、「ビートルズ大学」学長と名乗ってそれを発表している。現にこの映画には、私が取材したことがある顔が8人登場した。あらゆるトリヴィアを知り尽くしたうえでインタヴューする彼の姿に、すべて共感しながら全編賞味した。

 

セス・スワースキーは私と同じ1960年生まれ。彼はこうして映像でまとめて発表し、私は「ビートルズ来日学」(レコード・コレクターズ連載)などでその成果を発表している(繰り返すが、規模は全然違いますよ)。

 

『ビートルズと私』 | REALTOKYO
(C)Cinema Libre Studio

それにしてもセスがアメリカ人だったのはラッキーな話である。アメリカは、ビートルズが全米ツアーを3回行ったショウビズの中心地であり、ジョンが移住した国である。それゆえビートルズと接した関係者の多いこと。

 

セスがまだまだいろんな関係者インタヴューをしているであろうことは容易に想像できる。なぜなら各国のビートルズ・コンヴェンションでその時々のスペシャル・ゲストたちにインタヴューしていくだけでも、あっという間にかなりの人数になることを私は知っているからだ。いつか各人物ごとの取材映像コンプリート版を「マニア向けスピンオフ・シリーズ」としてリリースしてほしいものだ。もし彼が、この映画の観客の立場であったなら確実にそう願うに違いない。

 

『ビートルズと私』 | REALTOKYO
(C)Cinema Libre Studio

矛盾するようだが、だからこそ、この映画で最も敬服させられる点は「各インタヴューの95%(推定)をばっさばっさと切り捨て、何十人もの談話をわずか85分でまとめているその思いきりの良さ」である。アメリカン・ジョークを聞くような絶妙のテンポ感、「もっと聴きたい」と思わせる腹八分感は、この映画の重要な魅力となっている。それはビートルズ好きであるほど困難を究める作業だったはずだ。私なら「どの話も貴重だからどこもカットできない」となってしまい、結果、マニアでも眠ってしまう「だら撮り」大作に陥る可能性は大である。

 

『ビートルズと私』 | REALTOKYO
(C)Cinema Libre Studio

エンディング近くでセスがさりげなく「ビートルズを好きになったのは5歳のとき」と語り、それが65年だと気づいたときの私の衝撃はとてつもないものだった。日本で彼や私のように1960年生まれであれば、それは完全に「第二世代(70年代からビートルズを聴き始めた世代)」を意味する。つまり「既にビートルズは解散しているが、データや資料だけは豊富に出揃っている時代」にビートルズを聞き、研究に走る世代である。だからこそセスの熱心なフィールドワークを「わかるわかる、いよっ御同輩」などと眺めていただけに、腰を抜かしてしまった。日本の「リアルタイムのファン=団塊の世代オンリー」とは大きく異なる「英語ネイティヴの地域での第一世代の何たるか」を理解できたのは、この映画で得られた大きな副産物である。当時からずっとビートルズが大好きなセス・スワースキーに乾杯。

 

インフォメーション

ビートルズと私

日程:9/28(土) よりシネマート六本木ほか1週間限定公開

公式サイト:http://beatles-stories-movie.com/

寄稿家プロフィール

みやなが・まさたか/1960年生まれ。ビートルズのオーソリティとして「コンプリート・レコーディング・セッションズ」日本版監修、ポール・マッカートニーや小野洋子インタビュー、ジョン・レノン・ミュージアム展示品解説など手がける。大瀧氏との仕事では「レッツ・オンド・アゲイン」(細川たかし)、「うれしい予感」(渡辺満理奈)、「針切じいさんのロケンロール」(植木等)をオーガナイズ・プロデュース。自身の出演していた「オールナイトニッポン月曜1部」でも大瀧氏をゲストに招いた。大瀧氏の活動を世に啓蒙する活動は、80年代『りぼん』読者ページ“みーやんのとんでもケチャップ"時代から一貫して展開し続けている。 www.catchup.jp/b4univ/