お城に憧れた幼少時のトラウマで話すことができない高校２年生の成瀬順。両親の離婚は自分のせいという罪悪感に苛まれ、母親ともうまくいかない。そんな順が、高校行事「地域ふれあい交流会」実行委員に選ばれ、なんとミュージカルをやることに…！？　『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』チーム（長井龍雪監督、岡田磨里脚本、田中将賀総作画監督）が再集結し、音楽をクラムボンのミトが担当。フラジャイルな世代の、リアルとファンタジーがせめぎ合う日常と成長を巧みに描き、観客の記憶のやわらかい部分を刺激する。芸達者な声優陣に加え、吉田羊も参加。まあ確かに郊外に建つお城って子供には紛らわしい物件ですよね…。

『シン・ゴジラ』など「怪物の」映画が控える一方、世界を驚かせた「怪物的」映画がDVDになった。クトゥルフ神話と『はたらくおじさん』（NHK）がはち合わせたような衝撃。監督は人類学者であり映像作家でもあるルーシァンとヴェレナの2人。主観映像でもなく、他者に委ねた視点でもない、嵐の大海原で見出された新しい世界の感じ方。モニターもピントリングも照明もない手のひらサイズのアクションカメラが写しとってしまった圧倒的密度の音と映像。人々の眼を釘付けにするのは、人間中心的な、地上的なるものの埒外に放り出されたまったく新しい映画なのだ。

画家ルノワールの次男、ジャン・ルノワールが1936年に手がけた40分間の珠玉の作品が、戦後70年を記念してデジタルリマスター版で公開となる。助監督には、アンリ・カルティエ＝ブレッソン、ルキノ・ヴィスコンティが名を連ね、カメラは監督の甥っ子クロードが担当。モノクロ作品ながら、燦々と降り注ぐあたたかな陽光や川面をそよぐ清々しい風を感じ、さんざめく小鳥たちの歌声も鮮やか。主演シルヴィア・バタイユは、ジョルジュ・バタイユと離婚後ジャック・ラカンと恋に落ち、哲学の巨人たちとの間にそれぞれ娘をもうけたという魅惑的なファムファタール。その煌めきをもう一度堪能できる喜びを味わって。

アラン・リックマンの監督２作目、脚本と出演も担う。17世紀、女性庭師がヴェルサイユの庭園を作ったら…という共同脚本ディーガンの発想を基に描き上げたある種リアルなファンタジー。ケイト・ウィンスレット（妊娠中！）演じる庭師サビーヌは、斬新な企画書で庭作りのコンペに勝ち、水のない土地に水を引き、滝や噴水を造るという難問に身体を張って立ち向かう。言うまでもなく完璧な男社会、女性庭師を影で支える上司のル・ノートル（マティアス・スーナールツ）の甘い存在がニクい。もっと上司の国王ルイ14世（リックマン）とサビーヌの梨園での逢瀬もチャーミング。古い体質に一石投じる"キャリアウーマン"が颯爽と進む姿が清々しい。

「チャンスマート」で店員として働く、頑固で偏屈な独居老人キム・ソンチル。なぜか勝手に家に出入りする近所の老婆グンニムに恋をして、社長のチャンスらに応援されるが……。『シュリ』のカン・ジェギュ監督が手がけたジジババの恋愛物語？　と思いきや、高齢者を軸とする家族の物語だった。からくりがわかるのは90分が経過したところなので、私のように鈍い人は少々ジリジリしてしまうかも。「君の名は？」で若いふたりが出会い、その名前が思い出せなくなるまで共に過ごす。そんなシンプルな人生の中に、えも言われぬ慈愛があふれる。様々なキャラを演じてきた名優パク・クニョンとユン・ヨジュンの円熟の演技が見どころ。

時間を経て変化する、ある夫婦の愛の形を描く。舞台は南イタリア、アドリア海を臨む街レッチェ。雨の日のバス停で出会った、粗野で印象の悪いアントニオ（フランチェスコ・アルカ）に（意外にも）惹かれ結婚するエレナ（カシア・スムトゥニアク）。ゲイの親友のファビオと一緒に念願のカフェを開店、順風満帆なはずが、乳がんが発覚し…。原題「シートベルトをしめて」は、予測不能な人生の乱気流にもなんとか踏ん張れというエール。オズペテク監督はガンになった友人女性の夫婦関係の話に感化され「病気や事故で相手が大きく変化しても、相手を求めるというのが"真の愛"なのでは？」と脚本を書いた。主演ふたりの容姿変化がチャレンジング。

ジャック、10歳。愛情豊かな若い母親は家庭より恋愛優先、留守がちで弟の世話はもっぱら彼の仕事だ。父親はいない。ある日、ひとりで施設に預けられたジャックは、そこを抜け出して弟と一緒に母親を探しに行く……。昨年のベルリン国際映画祭を沸かせた、ドイツのエドワード・ベルガー監督作品。親の未熟さゆえ、まだ甘えたい盛りなのに親代わりになるしかないジャック。黙々と耐える少年の姿に胸がひりつき、笑顔が少ない小さな役者の演技に魅了される。映画のラストでぐんと成長した彼の眼差しには希望があるが、欠落したものを抱えて大人になった暁になにが起こるだろう。先の先まで、ジャックの未来を想像したくなる。

京都の大学で映画を教える映画監督の時田修次（奥田瑛二）は、映画の新作になかなか入れず悶々とする。修次にとって映画は現実と深く繋がっているもの。新作の脚本を書き始めると、登場人物の女子高生が現実に影響を及ぼし始め…。高橋伴明監督は、現実と虚構の世界を行き来させつつ、老いるということ、人間の生と性を赤裸々に、真正面から描いていく。高橋が実際に教鞭をとる京都造形芸術大学の学生たちとのコラボレーションもあり（劇中の学生によるミュージカルシーンが素敵！）、自身のリアルともオーバーラップしていて興味深い。主演の奥田と不二子は体当たりの熱演、製作参加の高橋惠子も出演するなど、細かい見どころも満載。

1908年生まれのアデライン・ボウマン。29歳のときに落雷の作用で老化が止まり、周囲に怪しまれることを恐れた彼女は、10年ごとに名前と住まいを変え、逃亡生活を始めるが……。20世紀初頭から2015年まで、100年を越えて生き続ける苦悩をブレイク・ライヴリーがヴィヴィッドに演じる。時代ごとのスタイルの変遷をヘアアレンジと服飾で見せるファッションカタログのようでもあり、その着こなしはさすが！　アンチエイジングは多くの女性の悲願とはいえ、この映画を見たら、鏡に映った己のシワや白髪も愛おしくなるかも。彼女の人生を変えることになるキーパーソンを、ハリソン・フォードが演じている。

ホウ・シャオシェン監督８年ぶりの新作は、唐代中国舞台の伝奇小説をベースに作り上げた異色の武侠映画。13年前に女道士に預けられ、暗殺者となった隠娘（スー・チー）は、自らの弱みを克服するため、故郷に帰って節度使の田李安（チャン・チェン）を暗殺せよと師に命じられる。非情の刺客となれるのか…。ホウ組常連の主演のふたりにときめき、撮影監督リー・ピンビンによる映像美にため息。今回、鏡磨きの日本人青年役として妻夫木聡も参加、その妻役の忽那汐里出演の日本撮影シーンを追加した日本オリジナル・ディレクターズカットでリリースされる。物語はシンプルだが、人間関係はやや複雑。迷子防止にさらっと用語の予習をオススメ。

『散歩する惑星』、『愛おしき隣人』に続くロイ・アンダーソン監督の「リビング・トリロジー」シリーズ最終章。全39シーンを、固定カメラで１シーン長回し方式、４年の歳月をかけ、自前スタジオの巨大セットにてすべて撮影され、馬も、国王も参戦する。いわゆる"脚本"はなく、監督の描く絵コンテによって作っていくという。軸となるキャラクター、冴えないサラリーマンコンビのサムとヨナタンの不思議なリズム感がツボを突く。エピソードが、およそ脈絡なく、時にド肝を抜き、時に妙にエロチックに、まるでそれぞれが１枚の絵画のような完璧さで描かれる。ブリューゲル（父）やベケットの影響を受けたアンダーソンのものづくりの哲学に唸る。

「SAHEL」「WORKERS」「EXODUS」等、つねに人間を撮ってきた報道写真家サルガドが、近年の「GENESIS」では風景や動物を被写体とした理由とは？　サルガドの長男、映画作家のジュリアーノの息子視点に、ヴェンダースの美意識を加えた共同監督、叙情的で意義深いドキュメンタリーに仕上がった。ヴェンダースのインタビューで、冒険家さながらの旅と壮絶な仕事の記憶を再生するサルガド。父の旅に同行したジュリアーノは、写真家と被写体が生む奇跡的な瞬間を映し出す。世界の飢餓、虐殺、理不尽を目撃し、人間の闇の核心を知ってしまった写真家の辿り着く答えが「世界は人間中心じゃない」というのが実に興味深い。

福島第一原発事故後、埼玉県旧騎西高校へ全町避難した双葉町の9ヶ月（第一部）に続き、その後３年間を追った「第二部」が完成した。議会と対立した町長の辞任、異例の避難所での町長選挙、そして避難所の閉鎖。ずっと絶妙な距離感で寄り添うカメラ。新町長を迎えた双葉町だが、中間貯蔵施設の建設計画はじめ難問だらけ…。「しかし！」と舩橋淳監督が問う。その電力を使用してきたのは誰？　すべての原発の問題を彼らに押し付けていいわけがない！　舩橋にしか撮れない知的かつ感性に響く映像、共鳴する坂本龍一の音楽が右脳と左脳に訴えかける。電力の恩恵を受けてきた都民は少なくとも一度は観たい、いや観るべき。現在第三部も絶賛撮影中。

亡くなった妻からの最後のプレゼント、愛犬デイジーに癒され、悲しみに耐えていた元殺し屋のジョン（キアヌ・リーブス）。突然ロシアマフィアから因縁をつけられ、愛車マスタングもデイジーも失ってしまう。親友の殺し屋マーカス（ウィレム・デフォー）さえも敵に寝返り、絶体絶命…！　アクション界のレジェンドと呼ばれるチャド・スタエルスキ（監督）、デヴィッド・リーチ（製作）とタッグを組み、厳しいトレーニングを積んで披露するユニークなアクション"ガン・フー"はキレ味最高。全体的にスタイリッシュすぎる演出はややクサイが、シックなスーツに身を包み、カッコよさが倍増している50歳を越えたキアヌは必見。スカッとしよう！

静かに施設で暮らす老婦人ジュン（チェン・ペイペイ）を訪ねたリチャード（ベン・ウィショー）は、通訳を雇い、懸命にコミュニケーションを図ろうとするが、ジュンは心を開いてくれない。そのわけは…。脚本に魅了され、出演を快諾したウィショーは、新鋭ホン・カウ監督のファーストチョイス、知性と感性に富み、おまけにセクシー。さらにリチャードの美しい恋人役、新星アンドリュー・レオンの存在感もサプライズ。カンボジア出身、ベトナムと英国で育ったホンが、異国で苦労をしてきた母親に思いを寄せ、果敢に挑んだ意欲作。キャスティングはもちろん、工夫を凝らしたカメラワーク、照明、音楽、色彩、隅々に真心がこもり、リピート不可避に。

40代に入って仕事が減り、崖っぷちに立たされた女優ロビン・ライト。シングルマザーの彼女は難病を抱える息子のために一大決心をして、とある契約をミラマウント社と交わす。そして20年が過ぎ……。『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督が、スタニスワフ・レム原作のSF小説『泰平ヨンの未来学会議』を映画化。ユニークな発想で大胆にアレンジ、オリジナリティあふれる作品に仕上げた。分身のような女優をロビン・ライト本人が演じ、ハリウッド批判もあれば、数多の映画へのオマージュもある。現実の世界を実写で、妄想の世界をサイケでポップなアニメで表現するなど、どこまでも自由な監督のインタビューもご一読を。

スイスの小さな町でつましい生活を送る移民のオスマンと小さな娘サミラ。妻の入院費用もままならない彼らのために、刑務所を出たばかりの友人エディが驚愕のプランを提案する……。『神々と男たち』のグザヴィエ・ボーヴォワ監督・脚本の新作は、1978 年に起きた「チャップリン遺体誘拐事件」がモチーフ。遺族の全面協力を得て生前に暮らしていた邸宅や実際の墓地でロケを行い、チャップリンの妻を演じているのは、なんと彼の孫娘だそう。音楽は巨匠ミシェル・ルグラン、撮影は『神々と〜』も手掛けたカロリーヌ・シャンプティエと、スタッフも豪華。犯罪ものではあるけれど、なんとも温かく、チャップリンへのオマージュも随所に。

なぜかすぐに植物を枯らす、25歳の梅宮志乃は恋愛体質。引っ越し先のアパート隣人、京志郎の笑顔にひと目惚れした。心変わりを察した京志郎の彼女のあかりは突然姿を消すが…。ジョージ朝倉の人気コミックを田口トモロヲ監督が映画化、１作目の『色即ぜねれいしょん』に続く会心作に。親友ナナコ（木村文乃）、オカマの天ちゃん（松坂桃李）、バイト仲間の川谷（菅田将暉）、元カレ（柄本佑）、劇団座長の千葉（峯田和伸）ら、共演者も個性的で賑やか。つまずきながらも成長していく「志乃」を伸び伸び体当たりで臨む多部未華子は新境地をひらき、相手役の綾野剛も飄々と、かつ繊細なアプローチで新鮮。さらに大友良英の音楽がツボを突き、王手！

故郷を10年ぶりに訪れた佳幸。高校卒業後、ミュージシャンになろうと家業を継がずに家を出たが、家族や親友に再会し、様々な思いが去来する……。群馬県太田市合併10周年記念事業の一環として製作された佐々部清監督作品。夢と憧れ、家族との葛藤、切ない恋の思い出など、青春映画の王道モチーフをちりばめながら、太田市の美しい風景を映し出す。10年という時間を経て変わったもの、変わらないもの、再発見できたもの。どの地方にも共通する普遍性があり、地方出身で都会在住の人にはぐっとくるものがあるはず。群馬出身メンバーのバンドback numberが手がけた劇中歌のメロディーが心地よい余韻に。

1865年、パリ。絵画を志すモリゾ姉妹はルーヴル美術館で画家エドゥアール・マネと出会う。モデルを頼まれて、彼のアトリエを訪ねた妹のベルトは次第にマネに惹かれていくが、彼は既婚者だった……。印象派の女性画家ベルト・モリゾの没後120周年記念作品。両家の子女が嗜みとして齧った絵画にのめり込むものの、プレッシャーに耐えかねて家庭に入った姉、婚期が遅れながらも描き続けた妹。150年も前の物語ながら、女たちの悩みがいまも変わらないことに驚かされる。ゴダールを始め、カラックス、諏訪敦彦、河瀬直美らの監督作品の撮影監督として知られるカロリーヌ・シャンプティエが監督を務めた初の長編ドラマとしても注目。

1945年の東京、杉並。父を亡くし、母とふたり暮らしの19歳の里子（二階堂ふみ）が体験する戦争とは…。高井有一の谷崎潤一郎賞受賞作品の荒井晴彦脚本・監督による映画化。妻子ある市毛（長谷川博己）との危うい恋を繊細、かつ生々しく描きながら、戦時下の非日常に生きる庶民の"日常"にフォーカスする。日々の食事や近所づきあい、季節感覚、または居候の叔母（富田靖子）との間に起こる軋轢さえも人間くさくてどこかほっとするが、戦争の恐怖はつきまとう。下田逸郎のメロディアスな音楽も絶妙、茨木のり子の詩の引用や、蝉の音が消えるシーン、エンディングのクローズアップ等、荒井独特の仕掛けが随所に効いている。

「これが現在の私。どうしてこうなってしまったのか、これからお話しします」という、男の怠いナレーション。映し出されるのは、鳥の巣??　不穏な空気満載で幕を開ける本作は、盗撮で行方をくらました元高校教師、恋人のキャバ嬢、彼女を寝とる教え子を軸に展開される人間ドラマ。水戸のうらぶれた雰囲気の中、誰もが諦観を抱えてしがない日々を送る。滑稽かつ辛辣に映し出される元教師の転落人生は、悲哀たっぷりでボロ雑巾のよう。どいつもこいつも本当にしょーもなく、実に馬鹿馬鹿しいが、三村和弘のカメラも渡邊琢磨の音楽もカッコいい。こんな映画をオリジナルでいちから作ってしまう冨永昌敬監督に拍手を。

半藤一利のノンフィクション『日本のいちばん長い日　決定版』を原田眞人監督が映画化。「堪へ難きを堪へ忍ひ難きを忍ひ…」玉音放送が流れ、降伏、終戦した日の舞台裏が描かれる。２つの原爆が投下され、瀕死となった国が、最後に守ろうとしたものは何か。阿南惟幾陸軍大臣（役所広司）はなぜ自決したのか。鈴木貫太郎（山崎努）の首相任命時に遡り、かつて侍従長と侍従武官だった鈴木と阿南の関係性、また等身大に描かれた昭和天皇（本木雅弘）との距離感も、複雑な局面を理解するコアとしている。御前会議が行われた御文庫地下防空壕の再現セット他、ロケーションの数々も見どころ。緊張の中に微かなユーモアを取り入れるところも原田らしい。