イランの港町の廃船でひよこと暮らす11才のアミル（マジッド・アルマンド）。天涯孤独だが淋しくなんかない。空き瓶集め、水売り、靴磨きと忙しい毎日。海の向こうの見知らぬ国に憧れ、友達と思いきり遊び、大好きな飛行機や船や列車と競争して走る。ある日、字が読めないことに気づき、アミルは猛勉強を始める…。イランのアミール・ナデリ監督自身の少年時代の体験を描く、彼がアメリカ移住前にイラン国内で撮った希少な作品のひとつ（1985年）。イスラム革命後、初めて海外で受賞したイラン作品であり、『CUT』で映画愛を炸裂させたナデリの原風景。どのショットも力強く躍動感に溢れ、とてつもない生命力が漲る。ぜひとも子供たちにも観てほしい。

８年間会っていなかったクラスメートのミキ（吹石一恵）が自殺未遂をした。それを聞いたジンコ（宮﨑あおい）と素子（安藤サクラ）は、ジンコがたまたま出会い運転手を申し出てくれた原木（忽那汐里）と共に青い車でミキに会いに行く…。脚本はキーワードしか用意しないという独創的な手法で登場人物���リアルな感情を要求する石川演出。独特なグレイッシュブルーな世界も、菅野よう子の音楽も変わらず、『好きだ、』で感じた息苦しくなるほどの没入感がよみがえる。会わなくなった友だちのことを思い出しながら「風に乗って飛ぶものに願いごとを言う」のをやってみようか。

第二次大戦が終わり、海外赴任から戻った帰還兵フレディ。アルコール依存で社会復帰が難しく、放浪する中で客船に潜り込む。船内で新興宗教団体「ザ・コーズ」の面々に遭遇、船主で指導者の"マスター"が彼の人生を変えていく……。残念ながらアカデミー賞は無冠に終わったPTAの新作。主演と助演の男優賞にノミネートされたホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンが30代と40代とは思えない貫禄で、とりわけクローズアップで捉えられた両者の顔の凄まじさに圧倒される。豊穣な音楽も聴き応えあり。迫力の映像と音を満喫するためにはDVDではもったいない。本当はスクリーンで観てほしかった。

3.11大震災時、遺体安置所となった岩手県釜石市のある中学校の体育館。遺体の搬送、検死、DNA採取、身元確認を毎日懸命にやり続けた住民、確認に訪れる遺族、現場を仕切る役割を申し出たボランティア、それらをつぶさに取材したジャーナリスト石井光太のルポルタージュをドラマにした。君塚良一監督が「たとえ批判されたとしても」あえて映画にしようと思ったのは、そこに書かれた事実のなかにある「真実」を伝えたいと思ったからと言う。どんなに時間が経とうとも忘れないよう、目を逸らさずに"あの日、あの時"を見届け、しっかりと心に留めたい。西田敏行、志田未来、勝地涼ら、難しい作品に挑戦したすべてのキャストやスタッフと共に、深い祈りを捧げよう。

幼い孫娘を殺した清丸の首に10億円の懸賞金をかけた老資産家。日本中が色めき立ち、恐怖に苛まれた清丸が福岡で出頭。身柄を東京まで移送するため、SPの精鋭たちが選ばれるが……。大金欲しさに血眼になって清丸の命を狙う民衆の中には警察官もいて、列島縦断の旅は車も飛行機も新幹線も危険が隣り合わせ。息もつかせぬ展開にドキドキしっぱなしの、三池崇史監督による極上エンタテインメント。任務を全うしたいSPたちも、仲間うちに裏切り者がいて疑心暗鬼に。「人間のクズ」は殺してもいいという、正義を装う金目当てのさもしい人心との闘いは、なにが善でなにが悪か、観る者に突きつける。

離婚以来離れていた長男の結婚式のため実家にもどったリン（エレン・バーキン）、元夫や、新しい妻（デミ・ムーア）、神経衰弱な母（エレン・バースティン）、マイペースな父、自傷行為をやめられないわけありの長女、ドラック中毒の不安定な二男（エズラ・ミラー）、自閉症気味の三男と、しばらくぶりの家族大集合だけど、なんとも騒々しく問題だらけ、あわや喧嘩も…。新人監督のサム・レヴィンソンは、著名監督の２世というメリットも恐らくフル活用しつつも、家族の隅々にまで、どんなことも批判しない温かい視線を送り好感触。こんな大家族のドタバタ劇をどうやって収拾つけるのか？　そこは若い監督の腕の見せ所でしょう。

高校で数学を教えるソッコは一人暮らしの孤独な男。隣室に越してきたファソンにほのかな恋心を抱くが、ある日、部屋を訪ねた元夫を彼女が殺害したことを知ってしまう。ファソンのためにアリバイを考え、それを伝えて、彼女を守ろうと奮闘するが……。原作は東野圭吾のガリレオシリーズ『容疑者Xの献身』。日本でもTVドラマの劇場版として、堤真一＆松雪泰子で映画化されているが、韓国版は福山雅治扮する物理学者・湯川学を登場させずにすっきりした構成で、「思い切ったアレンジ」と原作者も評価している。メガホンを取ったのは女優でもあるパン・ウンジン。リュ・スンボムとイ･ヨウォンの醸し出す空気がたまらなく切ない。

パパの会社で仕事してるフリしてネットでフィギュアを購入、家では���マと仲良くバックギャモン、そんな30代半ばにしてデブで薄毛のエイブが、陰気な美女ミランダにひと目惚れ。自信満々で猛アタックし、いきなりのプロポーズにYesの返事をもらうが……。なかなか大人になりきれない、でも、いつかオレだって！　と夢を抱く中年男の切ない物語を、トッド・ソロンズ監督がブラックユーモアに妄想や幻想を盛り込んだファンタスティックな味付けで描く。エイブがついに穴馬に？　という矢先の結末は、毒のある笑いを含んだイタさが本物の痛みに転換。ヒットしそうにないが、やけに気になる作品だ。

パリのアパルトマン。老夫婦ふたりだけの穏やかな生活が、妻アンヌのふとした変化で崩れ始める。認知症がふたりの人生を変えるが、それでも「素晴らしいわ、かくも長き人生」と妻は言う。夫ジョルジュは実娘もヘルパーも拒み、彼らの生活に密やかな終わりが訪れる……。老老介護の現実を静謐な筆致で描いたミヒャエル・ハネケ監督の新作。前作『白いリボン』と連続してパルム・ドールを受賞した。イザベル・ユペール演じる娘がたまに登場するが、ほぼ２人芝居。共に80代のジャン＝ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァの壮絶な演技に目を見張る。残念ながらアカデミー賞は逃したが、リヴァの女優魂に拍手。

ビンラディン捜査に明け暮れるCIAの追跡チームに、20代の分析官マヤが加わる。捕虜への拷問を目の当たりにして戸惑った彼女だが、仲間をテロで失ったことで殺意の炎が燃え上がる……。全米で大ヒットした本作は、アカデミー賞を総なめにした『ハート・ロッカー』のコンビ、キャスリン・ビグロー監督と脚本家のマーク・ボールが綿密なリサーチを経て完成させた、9.11復讐劇の舞台裏。アメリカ国民の怨念を背負ったヒロインが執念でターゲットを見つけ出す過程がスリリングに描かれ、特に後半は息つく暇もない。とはいえ容易にカタルシスが得られるはずもなく、苦みのある複雑な余韻が残る。

結婚して5年、夫に別れ話を切り出す妻。彼女が荷造りを始める中、雨の日にずぶぬれの子猫が現れる。探しに来た飼い主夫婦も家に上がり込み……。原作は井上荒野の『帰れない猫』。しんと静かな、倦怠期の夫婦の息が詰まる空間に猫と隣人が入り込み、風穴を開ける過程がしんみりと描かれる。これまでにも平安寿子の『アドリブ・ナイト』『素晴らしい一日』と、日本の小説を映画化してきたイ・ユンギが監督と脚本を手掛けた。アノニマスな夫婦の揺らぎを繊細に演じるヒョンビンとイム・スジョンが、ノーギャラ出演と聞きびっくり。エンタメ大作以外の製作環境のキビシさはいずこも同じだとしても……。

同棲している真琴と伸司の部屋に気の置けない仲間が集い、にぎやかにホームパーティー。結婚が決まった友人たちを祝福する。伸司も結婚を意識しているが、真琴はまだ考えたくない。ところが、真琴が思いがけず妊娠してしまい……。完山京洪が脚本、製作、伸司役も兼務した監督デビュー作。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭でSKIPシティアワードを受賞したほか、各国の映画祭に招待された。突然ポンッと相手が降りてしまったシーソーのように、当たり前のようにそこにある日常の掛け替えのなさを、人は失って初めて気付く。完成は2010年だが、本作は3.11後の空気を伝えている。

沖縄県宮古諸島に伝わる「アーグ（古謡）」と神々と交信する「神歌」を記録するドキュメンタリー。音楽家久保田真琴がひとつの歌に感動し始まった旅は、伝えるお婆やお爺が亡くなるとともに消滅してしまう貴重な歌の数々を録音し、歌い手の姿とスピリットを丁寧に映像に刻み付けていく。薩摩藩による厳しい税の取り立てに苦しむ人々を唄った歌など、「ブルースに似た響きがある」と久保田が語る。御嶽（霊場）での「神が一緒に歌う」神歌の様子や、それらを神の前ではなく、初めて人前で披露した東京でのコンサートも収録。思わず身体が動き出すほどソウルフルな歌を、歌に護られてきた島や人を思って聴き入る。

ペヤンヌマキさまの作・演出演劇作品は、2006年の“女ポツドール”こと、ポツドール番外公演『女のみち』から始まり、2010年以降のブス会＊3作品『女の罪』『淑女』『女のみち2012』と拝見しておりますが、あらゆるタイプのブスが生き生きと描かれ、ペヤンヌマキさまのブス・スペシャリストぶりに舌を巻いておるのですが、それが、こんなに幼少の頃からの人間観察の賜物だったとは。小学生の頃の『わるものメモ』からの『わるもの相関図』、そして男のムカつく発言を集めた『ブスノート』。お芝居では、スナックの人間模様やお掃除おばさん、AV撮影現場が舞台となっており、観ている私たちにも彼らの生きる世界が立体的に映し出されましたが、この本でも、スクールカーストうずまく中学・高校時代、ペヤンヌさまを○○○と評した彼氏、その彼氏に○○ブリッジをしてみせる大学時代の絵、AVの世界での楽屋模様などが目前に浮かんできます。『SPA! 』で『悶々うぉっちんぐ』というコラムを連載しているペヤンヌさま、この本にも「悶々」という言葉がたくさん出てきますが、その「悶々」を全部自分の手で、仕事に、やりたいことに昇華していく。そうやって、ひとつもとりこぼさないで生きるペヤンヌさま。ペヤンヌさまのお芝居では、どんなにブスにいがみあっても、結果、足の引っ張り合いではなく「この現場の仕事、がんばりましょう！」となるのが清清しいのですが、どんなにかつて悶々としていても、諦めず、ひとつひとつをペヤンヌさま流の『女のみち』へと活かしているからこそ、どうしたら自分の憂さがスッキリ「ヌケる」のか、そして、エンタメ作家として客観的に誰かの悶々を「ヌケる」のかを、身体が知っているのでしょう。「がんばりましょう！」と言うだけの、カラ元気な絵空事啓発本とは一線を画す、リアルな前向きさ。ネガティブをパワーに変えるそのさまは、ポジティブバカが大嫌いなわたくしも、スコーンとヌケました！　一番爆笑したのは、ペヤンヌさまの記した『ブスノート』の章。毎度毎度、だめんずやクソメンに当たってしまっても、それらを全部笑いにできれば。ブスって言われても、「お前なんか『ブスノート』行きだ！ 」とネタにしてしまえれば。ペヤンヌマキさま、この『ブスノート』も、まるごと出版お願いします！　ああ、この本を肴に、ブス友とブストークしたくってたまらなくなってきました!!

ローマ近郊にあるレビッビア刑務所では定期的に受刑者の演劇演習が行われ、一般の観客に披露されている。今年の演目『ジュリアス・シーザー』に向けて稽古がスタート。所内の至る所で稽古に明け暮れる彼らは、次第に役柄に同化して……。パオロ＆ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟が監督と脚本を手掛けた、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。受刑者たちを捉えたドキュメンタリー？　いや違う。ならば、オーディション、稽古風景、芝居を終えて独房に帰るその姿さえも、映し出されたものすべてが「演技」なのだろうか。演じることの魔法を見せてくれる本作は、映画ファンはもちろん、演劇ファンも必見。

アルジェリア生まれのノーベル文学賞作家アルベール・カミュ。46歳で自動車事故死したとき車中に残された"未完の遺稿"の自伝的小説をジャンニ・アメリオ監督が映画化した。幼い頃に戦死した父の墓参のためにフランスからアルジェへ帰郷した小説家ジャック・コルムリ（ジャック・ガンブラン）が故郷で過ごした日々を邂逅する。祖母宅での貧しい生活、恩師との思い出、そして母への深い愛。海と太陽の土地でサッカーに夢中だった幼いジャック（ニノ・ジグレット）の澄み切った眼差しが語るのは…。アルジェリアとフランスの関係について悩み沈黙していたカミュが、受賞記者会見で語った言葉の裏の複雑な立場と心境、このタイトルの意味も含め、丁寧に光が当てられている。

妻の浮気で心を病み、入院していた病院から実家に戻ったパット。妻に会いたいが、接近禁止命令により近付けない。そんなある日、友人の義妹ティファニーと出会い、なぜか２人でダンスコンテストに出場することに……。愛の喪失を経て再び愛を見つけるという定番過ぎる物語だが、チャーミングなキャストによって、大いに笑ってホロリとさせられるラブコメに仕上がっている。ぷっくりほっぺがキュートなジェニファー・ローレンスはまたも新鮮な魅力を見せてくれるし、パットのお父さんを演じたデ・ニーロも意外性があって可笑しい。アカデミー賞８部門ノミネートで、ジェニファーが主演女優賞受賞！

「映画のデジタル化問題」について興味を持った俳優キアヌ・リーブスが企画製作、クリス・ケニーリーが監督。スコセッシやルーカスなど70人以上のクリエイターたちにキアヌ自身がインタビュー、デジタル化による映画の変化について多角的に迫る。ラース・フォントリアーらの"ドグマ95"での挑戦、ジェームズ・キャメロンの3D映画への情熱、デヴィッド・リンチの「もうフィルムでは撮らない」発言、さらに撮影監督、カラリストら技術者や機材メーカーの専門的な話も含めて、興味津々に食いつくキアヌのリアクションも楽しい。素材の保存問題はじめシネマの未来の話まで、すべてが映画ファンには必見！

チェルノブイリの隣町のプリピャチ。結婚式のパーティでアーニャが「百万本のバラ」を歌うころ、おぞましい事故は起きた。"森林火災"の消火に駆り出された新郎は二度と戻らず、原発技師のアレクセイは消息を絶つ。10年後、様変わりした街でツアーガイドとして"立入制限区域"を観光客に案内するアーニャ。そこへアレクセイの息子が父親の痕跡を探しにくる…。イスラエル出身のミハル・ボガニム監督は自身の母親のルーツであるウクライナ地方に興味を抱き、実際に住み込んでリサーチを重ねた。事故から25年、被爆の危険性、撮影の監視、さらに厳しい検閲に耐えて生み出された立入制限区域内で撮影された渾身のドラマ。

益田ミリの漫画を御法川修監督が大胆なキャスティングで映画化。脚本には『トウキョウソナタ』共同脚本の田中幸子が参加している。カフェ店員のすーちゃん（柴崎コウ）とOLのまいちゃん（真木よう子）は同じ34歳、そしてウェブデザイナーのさわ子さん（寺島しのぶ）は39歳。３人は10数年来つきあっているかつてのバイト仲間だが、それぞれ人生の問題を抱えて生きている…。デビュー作『世界はときどき美しい』で、日常のささやかな一瞬に宿る幸せを美しい映像詩で描いてみせた御法川は、まったりと見せかけて、女性の感性に寄り添うように色彩と光に細心の注意を払い、美しい絵画のように"時の魔法"を巧妙にキャンバスに映し出している。

大学入学に伴って長崎から上京した横道世之介。アパートでの一人暮らしが始まり、サンバサークルに入り、友達も彼女もできて……。ごく普通の愛すべき大学１年生・世之介が過ごした12ヶ月を、巡る季節と共に描いた青春映画。原作は吉田修一の同名の小説で、『南極料理人』『キツツキと雨』の沖田修一監督が高良健吾を主演に迎え映画化した。原作同様、12ヶ月を追いかけつつ、大人になった世之介の友人たちがあのころについて語るカットが挿入される。しかし、彼らがいる現在には世之介はいない。過ぎ去った日々を微笑みながら懐かしく回想する、そんな経験がある人なら誰しも温かな気持ちになれるはず。

1960年ローマオリンピック、弱冠18歳でボクシングライトヘビー級金メダリストとなったアリ。プロ転向後、伝説となる幾つもの死闘をリング上で繰り広げ、３度王座を獲得、さらにリング外でもブラックパワーの象徴として闘い続けた。マコーマック監督はアリの10人の対戦相手にインタビューを敢行。「ボクシング界の神」とまで言われた理由、アリとの闘いでどう人生が変わったか、アリへの愛と感謝が、10人それぞれの激動の人生に重ねて語られる。つい最近のロンドンオリンピックで闘病中の姿をみせたところだが、どんなに逆境にあっても絶対に諦めない、最後の試合まで貫き通した不屈の精神に圧倒される。

本場オーストラリアの大会でも入賞経験のあるディジュリドゥ奏者、GOMAが追突事故に遭い、記憶の一部を失うという高次脳機能障害を負った。昨年のTIFFで観客賞を受賞した松江哲明監督によるこのドキュメンタリーは、活動を休止した彼が家族のサポートとリハビリで少しずつ快復していく過程を追い、夫もでもあり父でもあるひとりのアーティストの希望に満ちた再生を映し出す。事故後に突然描き始めたという、アボリジニの絵画のような点描画がまた素晴らしい。過去と現在が交錯する映像、グルグル回る彼の絵画、ブォンブォンうなるディジュリドゥの深い音色で心地よいトリップに浸ろう。

三ツ星を維持してきたパリの高級レストラン。審査会を前にシェフのアレクサンドルがスランプに陥り、新メニューがひらめかない。途方に暮れた彼は急きょ生意気な若手ジャッキーをスカウト、素人シェフたちもチームに加わるが……。ジャン・レノとコメディの名手ミカエル・ユーンが主演。ふたりがサムライ＆ゲイシャ風のコスプレで日本人カップルに扮するシーンは失笑噴飯ものだが、本物の三ツ星シェフ、アラン・デュカスや"分子ガストロノミー"で知られるピエール・ガニェールを取材するなど、脚本も手掛けたダニエル・コーエン監督のこだわり���光る。やっぱり料理は愛情。後味も爽快な、美味なる逸品だ。

東京芸術劇場の新シリーズ"Roots"が始まった。現代演劇のルーツと言える60、70年代の名戯曲を、バリバリ活躍中の若手演出家が新たに仕立てるという企画で、第一弾は、「ポツドール」の三浦大輔が、つかこうへいの『ストリッパー物語』に挑むというからもう、スッゴイ楽しみ（シアターイーストにて7月28日まで）。ところで、現代演劇のルーツといって、忘れてならないのが『ゴドーを待ちながら』。このベケットの最高傑作にして、戦後現代演劇の金字塔が新書サイズで刊行された。ポケットにいつでも"ゴド待"を忍ばせて持ち歩けるって、なんか凄くない？　かつては、ベケット戯曲集などという大部が、本屋の棚を占める時代があったけど、まるで奇跡のようで今はとても考えられない。そんなだからこそ、今回の奇特な刊行（細部にわたる注釈も付され、たいへんありがたい）が、若手演劇人たちを刺激して、驚きの化学反応とか生じたら…なんて、これって勝手な"Roots"妄想？

子供たちに会おうと、瀬戸内海の島から上京した老夫婦。開業医の長男、美容院を切り盛りする長女、舞台美術に携わる次男、それぞれの家を訪ね、彼らの家族や恋人と束の間を過ごすが……。山田洋次が監督生活50年を記念し、小津安二郎に捧ぐ『東京物語』現代版。クランクイン直前に地震が発生、製作は延期になり、脚本は改訂された。物語には3.11後のいまを映し出すエピソードも盛り込まれているが、互いを思いやる気持ち、言いたくて言えないもどかしさなど、半世紀以上が経過しても日本の家族は相変わらず。原節子が演じ、蒼井優が演じた紀子が、血のつながりを超えたあわいの妙味を見せる。

生徒会選挙と文化祭で盛り上がる緋桜山中学に不審者が侵入、マドンナ的存在の女生徒が人質にとられ鈴木先生は窮地に…。 独自の教育理論「鈴木メソッド」を駆使して教育の難問に挑む、ひとクセある教師をドラマに続いて長谷川博己が熱演、爽やかな風貌の下でドロドロしたカオスな内面を炸裂させるユニークなコミカル感はもやは鉄板（？）。千人以上のオーディション選出の生徒たちは次世代の可能性を光らせ、同僚役のでんでんや富田靖子ら個性派がますますカオスに輪をかける。武富健治の人気マンガが原作。テレビ版は低視聴率とはいえ数々の賞を受賞した話題作、映画版もなかなかキレてる。

ロメオ（ジェレミー・エルカイム）とジュリエット（ヴァレリー・ドンゼッリ）は一瞬にして恋に落ち、生まれてきた子供が不治の病に罹っていると宣告され、そこから闘いが始まる。監督・主演のドンゼッリと脚本・主演のエルカイムの実話がベースというから驚く。実際の息子の難病と闘った現実をパワフルでロマンティックなラブストーリーとして描き上げた。重いテーマを跳ね返すようにユーモアとクールな音楽、さらにミュージカル風の楽しい演出も散りばめながら、病院撮影には徹底してリアリズムを重視、重すぎず、軽すぎないよう、繊細にバランスが保たれている。苦しい時を乗り越えたふたり、その後別れてしまったとか…。

フランス革命勃発直後の３日間、ベルサイユ宮殿の内情を王妃の朗読係の視点で描いたフランスのベストセラー小説を映画化。バスティーユ陥落後に届いた286人の処刑リストに騒然となる宮殿で、逃亡する者、絶望する者、贅沢の限りを尽くした王妃を護る者はもういない。しかし朗読係シドニー（レア・セドゥ）だけは、ポリニャック夫人に溺れる王妃を慕う。そんな健気なシドニーに残酷な命令が…。煌びやかな主役たちの影で崩壊の一部始終を目撃していた脇役にフォーカス、実際のベルサイユロケは美しく、対称的に宮殿の暗部は醜く、迫る悲運の足音は残酷に響く。