舞台は1975年の韓国ソウル郊外。よそ行きの服を着せられ、美味しそうなケーキを胸に抱えて、大好きな父に連れられて訪れた先は、カトリックの児童養護施設だった。ある日突然予想もしなかった状況に投げ込まれた９歳の少女の感情の動きが、繊細に描かれている。絶望に苦しむ少女の心の「死」と、前へ踏みだす決心をする「再生」への儀式──激しくも美しい一瞬一瞬の少女の表情とまなざしが観る者の眼に焼き付けられ、スクリーンを離れてからもふと脳裏によみがえる。監督自身の９歳の時の実体験を元にしているそうだが、描かれているのは自伝的な物語ではなく、「９歳だったときの心」である。

第一次世界大戦前夜、ドイツ北部の村。敬虔なクリスチャンが静かに暮らす小さなコミュニティを次々に不可解な事件が襲う。いったい誰の仕業なのか？　疑心暗鬼が蔓延する中、「純真で無垢な心」を養うよう少年の腕に巻かれた白いリボンは……。鬼才ミヒャエル・ハネケによるパルムドール受賞作。欺瞞、偽善、悪意の連鎖、人間のおぞましい本性をこれでもかと見せつける露悪的な作風で、観���を不快な気持ちに陥れる。黒字に白抜きの文字が並ぶ無音のオープニングから不穏な空気満載。村人たちの鬱屈した気分が伝わって気が滅入るが、モノクロームの美しい映像と子役の演技が救い。

築地で魚をさばくリュウの裏の顔は孤独な殺し屋。ある日、スペイン人のワイン商を消す仕事が舞い込み、その男ダビの店を訪れた彼女は彼と恋に落ちてしまい……。女体盛りの寿司で外国人ビジネスマンを接待するシーンで始まる本作は、イザベル・コイシェ監督が見た"ザ・トーキョー"。ラーメン屋に居酒屋、カラオケにパチンコ、地下鉄の車内風のラブホテルの一室、花やしきに赤い欄干の橋など外国人目線の映像が美しく、日本人から見てもエキゾチックな菊地凛子の魅力炸裂。リュウを見守る録音技師役、田中泯のモノローグで物語を綴っていくという語り口もおもしろい。

田舎のぽけーっとした高校生ノリオと34歳英語教師の明美が勢いだけで駆け落ち！　東京に出てきた２人は部屋を借りて暮らし始める。「私はエステ＆ジム通い、あんたは勉強して弁護士になるのよ」とノリオに言う明美だったが、実はカラオケでバイトして家計を支えている。ノリオは図書館で勉強を始めるが……。石井裕也監督が『川の底からこんにちは』と並行して作った作品。姉弟のような慈愛に満ちた関係の２人がチャーミングで、独特のユーモアにあふれている一方、現代的でシリアスなテーマも垣間見える。公開中の『あぜ道のダンディ』と併せてどうぞ。

群馬の実家で、父親が営むコンニャク屋を手伝う27歳のアユム。キラキラ輝いていた高校時代に没頭したHIPHOPへの情熱が再燃し、かつての仲間を集めてライブを計画するが……。入江悠監督による「北関東３部作」の２作目は、笑いと涙が詰まった爽やかな青春譚。個性豊かな５人の女子ラッパーが愛らしく、「レペゼンサイタマのSHO-GUNG」vs.「レペゼングンマのB-hack」のラップ対決が見どころ。前作を見た人なら、夢をあきらめなかったIKKUとTOMに再会できた喜びも感じるはず。この作品を観た後は、あなたの言葉もラップ調になってるかも?!

村上春樹の現在までの累計部数や国際的な評価を見て、芥川賞も与えていない日本の文壇は恥じ入るべきである。今回の映画化は、村上本人が脚本を読んだ上で許諾し、ビートルズからも楽曲使用許諾されたというから、歴史に立ち会っている醍醐味満載だ。一方、上下巻の原作を２時間にまとめただけあって、主人公が女性たちと交合していく様ばかりが浮き彫りになるのも事実。トラン監督が現代の空虚感を描くのに性を重要視したことがわかるとはいえ、「乾いたテイストが魅力の村上文学にぴったりではと英訳版で読んでみたところ、湿度の高い日本の情景が一気に浮上して驚愕」という体験が思い出された。BDのみ「16分長い版」（公開版より先に作られたもの）が同梱される。

金沢、加賀百万石の城下、武家の猪山家は剣よりそろばんを命とし、御算用者（会計係）として藩に仕える家系。直之（堺雅人）の実直な仕事ぶりは"そろばんバカ"とまで呼ばれていた。しかし、あるとき家の膨大な借金が発覚、長男の４歳の祝い、「着袴の祝い」の鯛が用意できないどころか、破綻寸前。ついに"家計立て直し計画"に踏み切る直之は、「家計簿」をつけ始め、お家（いえ）の一大事を救う…。磯田道史の新書が原作。武家のお財布事情がわかるユニークな時代物だ。苦境を乗り切る涙ぐましい工夫に感心。なんとも金沢らしい人々のおっとりしたやりとりも温かく楽しい。

テヘランの若きミュージシャン、アシュカンとネガル。イランではポップス演奏が禁止されているので、ロンドンライブを夢見てバンドのメンバーを探す。地下で活動する仲間を訪ね、隠れ家で練習。パスポートとビザを闇で取得しようとするが……。クルド人を描いてきたバフマン・ゴバディ監督が、音楽シーンを介してテヘランの実情を映し出そうと、危険を顧みず果敢にチャレンジ。演奏したいのに公の場所ではできないフラストレーション、音楽で表現したいというエネルギーと情熱がみなぎる。監督はイランを去り、来日も叶わず。それでも闘い続ける彼の努力が、いつか何かを変えていくと信じたい。

新神戸駅で出会った勇治と美夏。久しぶりに故郷に戻った２人が夜の街を歩き、阪神・淡路大震災から15年目の早朝に追悼会が開催される場所へと向かう。当時子供だった彼らには、それぞれの震災の記憶とその後の生活、そして誰にも言えず心にしまい込んだ想いもあるが、ある場所を通過することで堰を切ったように溢れ出す……。昨年NHKで放送され、話題になったドラマを再編集した「劇場版」が震災16年目に劇場へ。渡辺あやの脚本、大友良英の音楽もすばらしく、実際に震災を経験した２人だからなのか、森山未來と佐藤江梨子の演技を超えた表現が出色。

1930年代のシチリア島。貧しい牛飼いの次男ペッピーノは、家族と共にたくましく生きている。戦争を経て、青年に成長した彼は共産党員として政治活動に没頭。美しい娘マンニーナと恋に落ちるが……。『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督が、父親の人生と自身の半生を投影して作り上げた151分の大作。原題『Baaria』は故郷バゲリーアを指すシチリア方言で、ずばりのタイトルに故郷と家族へのあふれる愛が見える。80年代までの激動の半世紀を再現する、建設に１年を費やしたセットも見どころ。遊び心のある演出にも膝を打つ。

ジョン・レノン十代の日々は深い哀しみに満ちていた。本作はとてつもなくヘヴィーな親子関係を経た一人の少年の成長物語であり、バンドの誕生物語でもある。もし貴方がジョンについてまったく知らなかったとしても、これらを神の眼となって目撃した後は、彼の作品をディープに味わえる身体となるだろう。楽器や調度品まで研究し尽くした再現力に制作者の気迫を感じ、そんなことなど売り物にしていない在り方に英国の気品を感じる。ラストシーン、彼の新しいバンド名は一切口にされず終わるその粋なこと。誰もがそのバンド名を知っているからこそ泣けるのである。

1982年のイギリス郊外。母、妹、祖母と暮らすウィルは、絵を描くことが大好きな少年。学校で悪ガキのリー・カーターにからまれ、なぜか一緒に自主制作映画『ランボーの息子』を作ることに……。タイトルから小さな詩人の話かと思いきや、ランボー違いでスタローンのほうだった。『銀河ヒッチハイク・ガイド』のガース・ジェニングス監督自身の子ども時代の記憶がベースで、少年たちの映画作りの大冒険が、CGやアニメも使って見どころいっぱいに描かれている。男の子ってしょーもない、バカだけどかわいいと思えるシーンが満載で、映画愛もぎっしり。

短編作品が各国の映画祭で上映されるなど、東欧映画界の新鋭として注目を集めるブルガリアのカメン・カレフ長編第一作。メタドン治療に苦しみアルコールに浸り、かろうじて現実にひっかかっている38歳の木工技師イツォは、ブルガリアの首都ソフィアを訪れたトルコ人少女ウシュル一家の受難に居合わせたことがきっかけで、ギャングとつきあいながらも身の振り方を決めかねている弟ゲオルギと近づく。接近した兄弟は互いの内に自分の過去と未来、その核にある疎外と混乱を見出し、惹かれあうイツォとウシュルは、自分の内側にある力を、何かに依存せず自ら押し広げていく創造的な感受性に出会う。イツォが着ているＴシャツの、脱力を誘うプリントは、最初はノホホンとした外見と苦悩とのギャップを際立たせる一要素にとどまっているが、次第に、イツォの身体に開いた窓のように見えてくる。この作品にグランプリを与えた東京国際映画祭は、揶揄と批判の入り混じった言葉の塚に埋もれがちだが、『ソフィアの夜明け』は配給の困難な作品を映画祭が取り上げ、お祭りの限定的な上映から身近な映画館での公開までを、さまざまな側面から支えた一例であることを忘れないでいたい。

古い一軒家に暮らすルイとトバちゃん。ルイを産んで亡くなった母の代わりに、叔母のトバちゃんに育てられたルイも適齢期の30代。���かし還暦間近のトバちゃんが恋に落ちて家を出ることになり、平和な２人暮らしに変化が訪れる……。阿川佐和子の原作を先に読んだが、多少キャラクター設定の違いがあり、映画にはファンタジー風味が効いてまろやかな味わいに。ルイ役の坂井真紀は大好きな女優のひとり。額や目尻のしわさえチャーミングで、かわいらしく年を重ねている。本作のスチール担当は、彼女の夫で写真家の鈴木心。なるほどスイートな空気があふれているはずだ。

台湾人の父親を亡くした８歳の敦と６歳の凱は、母親と一緒に台湾の祖父母の家を訪れる。初めて会う孫に日本語で話しかける祖父。深い緑に彩られた山の中で、兄弟の夏の冒険が始まる……。篠田正浩、行定勲らの助監督として経験を積んできた川口浩史が監督デビュー。芥川龍之介の小説からインスピレーションを受け、時代と舞台を現代台湾に移してつくられた。しっとりつやつやしたリー・ピンビンの映像、哀切あふれる川井郁子のバイオリン、森の中の蝉しぐれ、カエルの鳴き声など、ダイナミックな自然を感じる音響にも心を動かされる。日台コラボの傑作。

フランスの新聞で連載され、半世紀も愛され続けている国民的絵本を、『モリエール　恋こそ喜劇』のロラン・ティラール監督がメガホンを取り実写映画化。ニコラを演じるマキシム・ゴダールほか、太っちょ、おぼっちゃん、優等生など、個性的なキャラをナチュラルに演じる子役たちがキュート。原画を紙芝居的に見せるオープニングからわくわくさせられ、60年代の風景を舞台に描かれるパパとママとの楽しい生活、小学校のクラスメイトたちとの大冒険にときめく。監督はジャック・タチやウェス・アンダーソンに影響を受けたというが、品のいいコメディセンスに納得。

元気のない人を励ますことが生き甲斐の女子大生３人組、女装して憧れの女子に接近する男子高校生、クレームとめくるめく妄想が渦巻く35歳独身OL、ネコを拾うようにリストラ中年を拾ってネコ屋敷ならぬ背広屋敷を作り上げた主婦。ニューシネマワークショップの映画プロデューサーコースで作られた４つの短編から構成されるオムニバスで、登場する人々はちょっとずれてるけど、もしかしたらそのへんにいるかもしれないチャーミングな人たち。錆びてるわけじゃなくて、いきなりサビから入る唐突なエモーションに、冷えきった心身が温まること請け合い。

奈々瀬と「お兄ちゃん」の英則が暮らす家の近所に、妊娠中の妻あずさと夫の番上が引っ越してきた。思いがけない奈々瀬との再会に、過去の忌まわしい記憶が蘇るあずさ。２人は高校の同級生だったのだ。奈々瀬には兄なんていないはずだが……。演劇として上演され小説にもなった本谷有希子の原作を冨永昌敬が映画化。濃密な空気が充満する狭い部屋を舞台に、浅野忠信、美波、小池栄子、山田孝之が奇妙キテレツなアンサンブルを奏でる。彼らのコミカルかつシリアスな演技、全編に漂う独特の間合いとテンポ、大谷能生の音楽もユニークで、監督の力量に感服。

40年前にお蔵入になっていた脚本を蘇らせたという、ひさびさマンハッタンが舞台の作品。まるで"世捨て人"のような、かつてはノーベル賞候補にもなった天才宇宙物理学者のボリスと、南部の家出娘の若いメロディが出逢う、というより無理やり同居することに。父娘ほどの年齢差、知能指数格差を越えてふたりは結婚？　そこにメロディの両親も登場、それぞれが新しい性癖、新しい才能に目覚める…。いくつになっても人生を諦めるなんて無意味なのだ。75歳のアレン監督、40本目にして、スピード感、辛辣なユーモア、奇想天外さは衰えない、どころかますます冴えている。

沖縄、与那国島でカジキの一本釣りをする老漁師を追うドキュメンタリー。くる日もくる日も、サバニという小舟に乗ってカジキを追う82才の糸数おじい。ユンカーマン監督率いる撮影隊は、時には１日12時間、約30回も海に出て根気づよく撮影。大海原でカジキと独り対峙する漁師の生き様は、まさにヘミングウェイの小説の世界さながら。迫力と温かさ溢れ���映像に小室等のトランペットが沁みるように響きわたる。撮影後に、おじいはカジキ漁に出たまま帰らぬ人となった。毎朝、無事を祈り、夫を送り出す妻をとても愛していた。ふたりの幸せな表情がやさしく心を満たす。

ミニシアターの相次ぐ閉館という厳しい状況の裏側で、インディペンデント映画の製作者たちも苦しんでいる。2005年に自殺した有能なプロデューサーの実話をもとに、女優、批評家と多方面に活躍するハンセン＝ラブ監督が脚本を書き、監督した。家族を愛し、また芸術の理解者として精力的に映画を製作していたプロデューサーのグレゴアール（ルイ＝ドー・ランクザン）は、会社の資金繰りが悪化、窮地に陥り自らの命を断つ。妻と娘たちは、中断された映画の製作を引き継ぐ決意をした…。シリアスになり過ぎず、パリ郊外の夏の緑、娘たちの瑞々しい躍動感に、心が透きとおっていく。

かつて恋したシルビアの面影を求めて男が街を彷徨う。ストーリーはそれだけなのに、経験したことがないユニークな作品。カフェでおしゃべりに興じる女たちをひたすらスケッチしたり、ストラスブールの街をぐるぐる追いかけっこしたり、男も執拗だがカメラもしつこい。市電や車が行き交う騒音、人々の話し声、石畳に響く足音など、あたかもその場に立っているかのような臨場感あふれる音声も驚異的。ビジュアルもサウンドも緻密に計算されたもので、セリフが少なく字幕も少ないから、自ずとテキスト以外の情報に集中できる。監督・脚本のホセ・ルイス・ゲリン、その名を記憶しなくては。

お見合いで結ばれたしげると布枝。骨身に沁みるような漫画家の貧乏生活が続くなかで、"夫婦"という最小の絆を健気に守る。しげるの漫画がやがて世の中に認められる日が来ると信じて…。そんな彼らを護るように妖怪たちはひっそりといる。同名エッセイが原作。テレビドラマよりも企画としては映画が先行し、しげる役に宮藤勘九郎、布枝役に吹石一恵を得たことで、まったく違う味わいを醸し出す。特に鈴木卓爾監督が仕掛ける現実と妖怪世界の融合はユニークで、『私は猫ストーカー』に次いでアニメーションの大山慶とコラボし、浮遊感ある世界に遊ぶ感じがやけに楽しい。

テヘラン近郊のカスピ海を臨むリゾートへ、バカンスに出発する大学時代の仲間たち。その中に、ある目論見で声がかかったエリの姿も。初日は大いに盛り上がる一行。しかし翌朝、子どもが海で溺れかけるという騒動の中、エリは忽然と姿を消した……。銀熊賞に輝いたアスガー・ファルハディ監督作品は、イラン中産階級の男女の３日間の心理劇。女性たちのかぶり物さえなければ、世界中どこでも見られるありふれた光景が広がるが、イスラム圏ならではの価値観も垣間見える。エリ役のタラネ・アリシュスティを始めキャストが彫りの深い美男美女ぞろいで、そこにいちばん感動した。

「来週はしらふで家族と会うのです」と言いつつウォッカをあおり、吐血して倒れた安行は救急車で運ばれる。元報道カメラマンの彼はアルコール依存症。離婚した元妻と子供たちに支えられ闘病の日々が始まる……。サイバラさんこと漫画家の西原理恵子の元夫で、07年にがんにより42歳で他界した鴨志田穣の自伝的小説が原作。東陽一監督らしいファンタジー要素も盛り込まれ、へんに感傷的にならずに綴っていくのがいい。浅野忠信と永作博美が、別居していても家族愛にあふれるカップルを好演。エンディングに流れる清志郎の『誇り高く生きよう』に泣かされる。

春の嵐が吹きすさぶ中、でこぼこの道を走る車から出てきた男たち。小屋の中へ入り、２人は激しく愛し合う。夫の浮気相手が男だと知った妻は逆上。やがて思いがけない悲劇が……。現代の南京を舞台に、夫ワン、愛人ジャン、ワンの妻リン、リンが雇ったルオ、ガールフレンドのジンという５人が性別を超えて愛し合い、複雑に絡み合う。前作で５年間の映画製作・上映禁止を中国当局から言い渡されたロウ・イエ監督が、解禁を待たずにハンディカメラを携えてゲリラ的に撮った話題作。郁達夫の散文が随所に織り込まれ、リリカルな空気と余韻を与え���いる。

ブルックリンの低所得者住宅に住むデイヴは、勉強も運動も冴えずコミックのヒーローに憧れる高校生。ある日、ネットで買ったスーツとマスクを着込んで街に出たデイヴは悪者相手に微妙な動きをとるが、YOU TUBEにアップされた姿が話題になり、ヒーロー"キック・アス"として有名になる。やがてマフィアから間違えて狙われたデイヴは、超本格的訓練を受けた自警団父娘"ビッグ・ダディ""ヒット・ガール"と出会い、悪に立ち向かう。『スパイダーマン』『バットマン』のほかに、まったく指摘されないが引用元として加えたいのが『ハムレット』だ（デイヴが授業中、夢うつつに『ハムレット』の台詞を聞いている）。行動を前にためらう自意識の強い主人公、いまひとつな外見、暴力と陰謀の間で苦悩する生身の人間、そして復讐。『キック・アス』は21世紀の『ハムレット』でもある。変な皺の寄るヒーロースーツ、チェック柄のミニスカートなど、既製品や手近にあるものを種に、想像と創造が芽を吹いた様を具現化したようなコスチュームもすてきだ。