中学のころ先生と禁断の恋愛、そして主婦になっての再会、って……!!!　これほどに官能的なシチュエイションがあるでしょうか。「コドモじゃねえよ、ちゃんと、好きになったんだよ」と、悲痛に語る赤澤ムックさまに心が痛む、昔、少女だった私たち。もうコドモじゃなくなったとき、ずっと心の底にあった愛はどうなるのだろう？　「焼けぼっくいに火がついた」では済まない大人の事情を抱えていても、きっと今なら自分自身も、あなたも、そしてしがらみの全てが燃え尽きるまで焦がれてしまうだろう。周囲を傷つけても、私自身が傷ついても、モラルを捨てて「あなたがほしい」と、あの森で逢いたい。……この恋を、愛を、手元に置いて甘やかな時間を過ごしたい、「先生が初恋」のすべてのあなたに、待ちに待ったDVD化（「月間シナリオ」10月号には、『結び目』シナリオと作者ノートも掲載中）。DVD特典は、先生と私を結ぶ「アレ」が良かったけれど、ついていないので、自分で作ります！　そしてやっぱり、あの森でいつまでも待ってしまうのです。中学生の私とあなたを。

���イヤル・シェイクスピア・カンパニー演出家による日英合作舞台の映像化。1600年、九州の海岸に漂着したオランダ船の英国人航海士ウィリアム・アダムス（オーウェン・ティール）は、徳川家康（市村正親）にその知識と人柄を買われ、寵愛を受ける。唯一の青い目の旗本”三浦按針”となるのだが、故郷イギリスへ帰る夢は断たれ、その心は引き裂かれていく…。宣教師ドメニコ（藤原竜也）の目を通して語られる鎖国前の日本の姿。どんな状況においても人間性を尊重しあう、現代人にも大切な精神が描かれる。ティールは、繊細な陰影表現でなんとも“日本人”らしいサムライに。

1964年のローマ。クランクイン目前なのに脚本は真っ白なまま。スランプ中の映画監督グイドは、現実逃避するかのように美しい女たちと幻想の世界へ陥っていく……。フェリーニ監督『8 1/2』がベースのブロードウェイミュージカル作品、初の映画化。ダニエル・デイ＝ルイスを筆頭に、オスカー俳優がずらりの豪華キャスティングが最大の魅力。彼らが歌い踊る、ゴージャスでダイナミックなステージに圧倒され、ついつい映画だということを忘れてブラボー！　と立ち上がって拍手したくなる。映画愛あふれるフェリーニへのオマージュ。映画好き、ミュージカル好きともに必見です。

空港で妹のレアと再会したジュリエットは、家族と暮らすレアの家に身を寄せる。初めて会う叔母の存在を不思議がる姪に、「ずっと旅行してたの」と応えるジュリエットだが、殺人罪で15年の刑期を終えて出所したばかりだった…。現代フランス文壇を代表する小説家のひとり、フィリップ・クローデルの長編デビュー作で、自身の実生活や実体験を投影させた脚本には思い入れがぎっしり。ジュリエット役のクリスティン・スコット・トーマスはラジー賞ノミネート経験もあるが、出色の演技を見せてくれる。女優賞をはじめ各国の映画賞に輝いた力強い作品。

79歳の老人を乗せ、えっちらおっちら老牛が荷車を引いている。30年も一緒に働いてきたこの牛は、おじいさんのよき相棒。それを尻目に老妻は、「牛ばかり大事にしてさ。なんでこんな人に嫁いじゃったんだろう、アイゴー」と嘆く。しかし老いた牛は日に日に衰え、ついに動けなくなって・。韓国で異例のヒットとなったドキュメンタリー。老人が寡黙なので、セリフの大半は老婆のグチで、これが可笑しい。ストレートで辛辣な物言いながら、半世紀以上をともにした伴侶だからこその愛あるグチなのだ。高齢化社会の究極のスローライフ映画、日本人の心にも大いに沁みるはず。

“カサンドラ・ドリーム”という名の美しいヨットを手に入れたロンドン南部に住む兄弟、イアンとテリー。労働階級出身の素朴な青年たちはそれぞれささやかな夢を抱いていた。ところが弟がギャンブルで借金を背負いこみ窮地に。兄弟は頼みの綱の“金持ち”の伯父ハワードの恐ろしい依頼を引き受けてしまう。いよいよ運を掴みかけ、バラ色の人生が開けると思った矢先、奈落の底へ堕ちるのか…。悲劇をミステリアスかつユーモラスに描くアレン独特のリズム、さらに兄弟演じるユアン・マクレガーとコリン・ファレルの豪華共演をたっぷり堪能！　めくるめく展開にのめり込んでいく。

くず鉄の仕切場を営む男、70代の女詐欺師、ゴミ屋敷で孤独死した老女、教会で暮らす元売春婦たち……。1977年に発行された沢木耕太郎の同名のルポルタージュ集から４篇を選び、東京芸大映像研究科の学生たちが映画化。すべて実在した人物で、30年余を経て映画化が許可されたというが、古くささをまったく感じさせない。現存する舞台を訪ねたり、人物を取材したりしながら、丁寧にシナリオを練った結果だろう。石橋蓮司、夏木マリ、室井滋、小池栄子といった達者な役者陣が、生きることの悲哀を、時にシリアスに時にコミカルに、そして壮絶に演じている。

年老いた早代（サヨ／岸恵子）のもとに突然届いた古びた原稿。それを読むうち、舞台は現代から昭和初期へ、サヨに幼い恋の切ない記憶が蘇る。足の悪い祖父の炭焼きの仕事を手伝いながら、貧しくもけなげに暮す草太（森本慎太郎）を想うサヨ。しかし10歳のふたりの間には“身分差”という厚い壁、さらに草太に数々の不幸がふりかかり…。中村嘉葎雄の“おじいちゃん”にはコクがあり、香川照之はうまい出汁、浅野忠信は不思議なスパイスという感じがしてくる。小山薫堂と松岡錠司の豪華なタッグ。“コドモと犬”を主菜に、ドラマ作りのしっかりした味わいを届ける。

NYロックフェラー・プラザ30番（30 Rockefeller Plaza）にスタジオを持つテレビ局NBCで、生放送のバラエティ『ガーリー・ショー』の制作に励む放送作家リズ・レモン。30代半ば独身の彼女とワンマン上司、キャラの濃い同僚、ハチャメチャな出演者たちが繰り広げる、１話30分の大ヒットコメディが日本上陸！　原案、製作総指揮、脚本、主演はティナ・フェイ。で、ゴールデングローブ賞、エミー賞など、数々の受賞歴を誇る。上司役はアレック・ボールドウィンだが、でっぷりしていて誰だかわからなかった。ウーピー・ゴールドバーグ、イザベラ・ロッセリーニら、さりげなく登場する豪華なゲストスターも見どころ。

強盗殺人罪で死刑宣告を受けた淳を訪ね、面会にやってきた薫。身寄りのない淳のために世話を申し出た彼女は淳に殺された男の婚約者で、養子縁組をして淳の養母になるが……。「まさきくあらば」と読むタイトルは万葉集の歌からの引用で、同名の小嵐九八郎による原作を、詩人で作詞家の御徒町凧が初監督。刑務所という閉じた空間を舞台に、面会窓越しに向き合うふたりが恋愛に落ちるまでの過程が丁寧に描かれ、イメージで愛を交わすシーンが圧巻。音楽監督は森山直太朗。何気なく挿入されるカットが美しく、ゆったりしたピアノの旋律が耳に優しく響く。

原作者ジョルジュ・シムノンは人気推理小説「メグレ警視」シリーズの生みの親。その息子ジョンによると「主人公の心のなかだけで起っているサスペンスなので、映像で表現することは不可能だと思った」という小説の映画化だ。鉄道員マロワンが海のそばで目撃した殺人事件。その犯人ブラウン（イギリス人）が隠した大金を見つけたことから、マロワンのささやかだが幸せな暮しにヒビが入り、人生が揺さぶられる…。ブラピやジャームッシュも敬愛するハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督。光と影に彩られたモノクロームの映像美に酔い、ひと癖あるダンディズムを堪能したい。

『落穂拾い』から10年。ヌーベルバーグの紅一点アニエス・ヴァルダ待望の新作は、自身の人生をたどるドキュメンタリー。彼女の作品に多く出演しているジェーン・バーキン、1990年に先立った夫ジャック・ドゥミ、愛する子どもと孫など多くの人々が交錯し、愛らしい少女がずんぐりしたおばあちゃんになり、80歳の誕生日を祝うまでの、豊かな人生の記憶がユーモアたっぷりに綴られている。こんなふうにチャーミングに歳月を積み重ねることができたら……！　まだまだ元気いっぱい、エネルギーに満ちあふれているアニエス。次回作もとても楽しみ。

想田和弘監督が『選挙』に続けて放つ「観察映画」第２弾。あえて入念なリサーチをせず、構成や落としどころを決めずに現場に臨み、カメラを回しながら対象を観察するドキュメンタリーである。今回の舞台は、小さな精神科診療所「こらーる岡山」。ぼかしもモザイクもなく、カメラは淡々と患者たちの言葉と日常生活を映し出すのみ。撮影を了解した患者たちが素顔で登場し語ることで、タブー感が軽減され、観客の心にするりと入り込む。ナレーションもテロップも音楽も一切排除され、すべての判断は観客に委ねられているという、この放ったらかし感が心地いい。

病院勤務のサンヒョンは人望の厚い神父。もっと役に立ちたいとアフリカに赴き、人体実験に志願した彼は、あやうく死にかけたものの輸血で奇跡的に生還。帰国し人々に崇拝されるが、怪しい血液によって吸血鬼と化していたのだった……。血液を水筒につめて持ち歩いて飲んだたり、家々の屋上をジャンプし軒先にぶら下がったり（ちなみに原題は『コウモリ』）コメディタッチのシーンが多いが、パク・チ���ヌク監督らしい目に突き刺さる痛い映像も。ソン・ガンホ体当たりのラブシーンも見どころ。モチーフの『テレーズ・ラカン』を予習しておくと、さらに楽しめるかも。

NY在住の劇作家ケイデン。妻が娘を連れて家出し、絶望に苛まれる彼のもとに「天才賞」受賞の知らせが届く。賞金を使って巨大倉庫のなかに「理想のNY」を作り上げ、自分の人生を演劇にするというプロジェクトに取りかかるのだが……。『マルコヴィッチの穴』のスパイク・ジョーンズとチャーリー・カウフマンが手掛けた作品ということで、おもしろくないわけがない。おまけに俳優は、フィリップ・シーモア・ホフマンやサマンサ・モートンだもの。リアルな街と箱庭の街が入り組んで、わけがわからなくなってしまった人はもう１回見よう。何度でも楽しめる作品だから。

没後20年という事実が、にわかに信じられない。懐かしさよりも、スクリーンのなかで燃えたぎる太陽のような目をしている俳優の瑞々しさに圧倒され、その存在感の大きさ、強さをあらためて思い知る。出演作品の印象深い映像や秘蔵映像の数々に加えて、共演者のアンディ・ガルシアはじめ、多大な影響を受けた俳優たち、さらにプロデューサーや撮影監督、脚本家らの貴重なインタビューを織り交ぜ、リアルタイムな逸話のなかに“熱き魂”を蘇らせる。とりわけふたりの息子が初めて「父」を語るとき、優作の想いが生き続けていることに、なんとも“奇跡”を感じる。

友人と旅行に出かける支度にバタバタしている妻のさくら（薬師丸ひろ子）をのんびり見送る夫の俊介（豊川悦司）。結婚10年目、夫婦のなにげない日常のひとコマだ。かつては売れっ子カメラマンだったのに、最近はやる気がない夫。「子供を作る気がないなら、別れて。」思わず妻が言う…。行定勲監督が「大人の映画を撮ろう」と挑んだ人気舞台劇の映画化。夫婦の軽妙洒脱なやりとり、さらに個性的な脇の人物たちとの楽しい絡みに惹きつけられつつも、小さな“ズレ”にふいに心がざわつく。思いがけないエンディング、井上陽水の声がしっくり響きます。

マドリッドで脚本家として暮らすハリー。かつて映画監督として活躍していた彼は、14年前に視力とともに大切なものを喪失して以来、名前を変え別の人生を歩んでいる……。ペドロ・アルモドバルの新作は、失われた愛の記憶を辿る男の物語。過去と現在を往来しながら、事件の真相が少しずつあらわになっていく。アルモドバルのミューズ、ペネロペ・クルスが劇中劇で女優デビューする運命の女を演じる。いつ見てもコケティッシュで愛らしいけれど、本作でも魅力炸裂！　気になるシーンが多いので、それを確認するために２度見るとさらにおもしろいかも。

馬車で旅をしながら大道芸を見せるパルナサス博士と仲間たち。鏡を通り抜けると、己の欲望がうずまく幻想世界を体験できる「イマジナリウム」が出し物なのだが、興行はぱっとしない。ある日博士の娘ヴァレンティナが、橋から吊るされている男トニーを救出する……。テリー・ギリアム監督が20年ぶりにオリジナル脚本でつくった新作。撮影中にトニー役のヒース・レジャーが急逝し撮影が頓挫したが、彼と親しかったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルが役を引き継いで完成した。悲痛なアクシデントを乗り越え、よくぞ作り上げてくれたと思わず感涙！