非常に多作なサウンドアーティスト、Rutger Zuyderveltは、大量に制作する３インチCDやコラボ作、映像のための音楽、ライブ音源などのほか、数少ないオリジナルアルバムの最新作を発表した。常にいくつかのプロジェクトが進行中のはずだから、ここまで作り込み、１曲１曲でものすごい緊張感・期待感を生み出す献身と集中力にまず驚くべき。環境と溶け合うイーノ的なアンビエントと違って、ごく小さいのだが複数のレベルでさまざまな出来事があるおかげで、25分の曲でもまったく長く感じない。それより、その緊張感に耐えること。つまり、作り手と同じ献身で聴くことがリスナーの課題だ。電子音と生楽器、ノイズのメロディ、静寂と突発による傑作！

掃除夫として働きながら、1973年に亡くなるまでの64年間、『非現実の王国で』と題した膨大な物語と絵を人知れず制作。拾い集めた雑誌の切り抜きをトレースするなど独自の手法を編み出し、大人によって支配された少女たちの解放戦争を描いた“引きこもりアーティスト”の謎に迫る。ダコタ・ファニングの愛らしいナレーションに導かれ、周囲の人々の証言、繁栄するシカゴの記録写真、アニメーション化されたダーガーの絵が紙芝居のように進む。神への信頼と疑いという監督の多義的な解釈も交わるが、見る人それぞれの想像に委ねられている。

中国第６世代の王全安監督が『さらば、我が愛〜覇王別姫』『活きる』のルー・ウェイと脚本を共同執筆して、遊牧民の女性の実話をもとにユーモア溢れる再婚話を撮った。ロケ地は中国国内モンゴル自治区の西北部、アラシャー盟。中国で最も降水量が少ないとされるこの地は砂漠化が進み、撮影の後、遊牧民たちは移住させられてしまったとのこと。彼らの生活と風景は、まさにギリギリのタイミングで記録された。ラストシーンで堰を切ったように流れ出る、若くてきれいな肝っ玉母さんトゥヤーの涙と、乾いた荒野のコントラストが効いている。

オレゴン州ポートランドに暮らす16歳のスケーター少年、アレックス。ある日、誤って人を殺してしまい、平凡な日常が少しずつ変化していく…。インディペンデントな作風で10代のゆらぎを繊細に描くガス・ヴァン・サント監督の最新作。ポートランドにこだわり続けているが、今回も然り。原作となった同名小説の作者ブレイク・ネルソン、主演俳優を含むキャスト、楽曲を提供したイーサン・ローズも同地出身だ。ウォン・カーウァイ組の撮影監督、クリストファー・ドイルの躍動感のある映像にからまる音楽も印象的で、思わずサントラがほしくなる。

1942年、日本占領下の上海。抗日運動に身を捧げる女スパイ、ワン・チアチー（タン・ウェイ）は、傀儡政権下特務機関の実力者、イー（トニー・レオン）に接近。無垢で大胆な色気を武器に、冷酷で孤独なイーを魅了し、暗殺の機会を狙う。しかしやがて、自ら仕掛けた愛のトラップにハマってしまい…。アイリーン・チャンの短編小説が原作。奇才アン・リー監督独特の粘り気のある演出で、大胆不敵なロマンスに仕上がった。激しいラブシーンに体当たりで挑んだ新人タンの女優魂も凄いが、“優男”トニーの新境地ともいえる強面な非情さも必見！

愛好家６人が集まり、月１冊ずつ、作品の担当を決めて６作品を語り合う（アメリカで大流行らしい）読書会…とは言いつつも、料理とワインを楽しみ、おしゃべりに花が咲く。重要なのは、人生の大先輩の優れた物語を“肴”にすること。“女性の幸せとは、結婚とは…”がテーマのJ.A.作品は、いまもなおいっそう味わい深く、悩める現代人の処方箋に。離婚歴６回の女性、愛犬を亡くし傷心の女性、離婚寸前の女性らがメンバーのなか、白１点（？）のグリッグは、実は作品を読んだことが無い…。いや未読でも全然大丈夫。人生のリッチさを味わえればね。

ノラ・ジョーンズ演じるエリザベスは失恋したばかり。偶然知り合ったカフェの店主、ジェレミーに話を聞いてもらうが、なかなか気持ちに整理がつかず、ひとり旅に出る…。自然体のノラの演技や彼女の旅先でのいろいろな出会いが、普段は忘れてしまいがちな、人が疲れてしまった心を癒すのに必要な時間と距離を体感させてくれる。まるで少女漫画に登場しそうな「白馬の王子様」キャラ、ジェレミーの役どころ（しかもジュード・ロウ！）も夢のようだし、ブルーベリーパイはとっても美味しそう。カーウァイ監督、乙女心を分かってるねぇ。

自然と文化というやや古典的な二分法においては、アートは文化の側にあった。征服と支配と捉えられた関係は、現在では対立でなく、代謝的な環境として捉えられるようになっているだろう。こうした指摘をアートによって行うと、往々にして人間に都合の良い自己満足的エコロジーとなって“おさむい”ことが多い。本書では、アーティストのアンソロジーとしてではなく、建築批評の立場から編集されているために、アクチュアリティーが生じている。言葉ではなく、作品の経年変化など効果的な写真構成による批評書���いえるだろう。

有機野菜をはじめ、人と環境に配慮した「美味しいオーガニック」を提供する市民NGO企業「大地を守る会」のコンセプトブック。といっても活動報告書のようなカタい内容ではなく、身近な視点から、食を通していかに気持ちよく生きられるかという考え方を楽しく紹介する。そこに彩りを添えるのは、100%ORANGEのイラストや、粋なレイアウトで撮影された野菜たちの姿。福岡伸一（分子生物学者）らの寄稿や、生産者を訪ねて収録されたインタビューも興味深い。コンパクトな手帳サイズながら、オーガニック野菜のように中身のギュッと詰まった１冊。

アルゼンチン音響派の魔術師、ヒゲおじさんアレハンドロの新作。プレスリリースにある「World/New Age」は、どうしても分類するなら確かに最も相応しいが、そこにアンビエントやジャズ、エレクトロニカ、フィールドレコーディングなどが絡み、どのジャンルにも入りきらない。アフリカ・ヨーロッパ・アジア・アメリカの伝統楽器が主役として続々登場する一方、合間にシンセなどの電子音のみの曲もあり、リズム中心の曲もあればリズム不在のもある。ジャケと共に楽園を思わせる音楽だが、不思議で色とりどりの要素の組み合わせには誰もが魅了されるはず。

対話で展開されるアロウの不可能性定理、ハイゼンベルクの不確定性定理、ゲーデルの不完全性定理の解説は、合理性の限界、観測と予測の限界、論理の限界を明解に教えてくれる。私は本書を読みながらモダニズム（特に芸術）のことを考えずにいられなかった。合理性や論理性を信じることと疑うことにどのような意味があるのか、あるいは根拠などがそもそも存在するのか？　限界に対して、現代の芸術はいったいなにができるのだろうか？　引いては自分が思考すること、発言することの理由がどこにあるのか？　読後に限界への挑戦をぜひ試みよう！

ローリングストーン誌のフォトグラファーとしてキャリアをスタートし、ミュージシャン、俳優、政治家、一般人…と、アメリカの「今」を生きる人々を撮り続ける写真家を追いかけたドキュメンタリー。暗殺される直前のジョン・レノンとオノ・ヨーコを撮影したこと、パートナーとして最期を看取った、スーザン・ソンタグとの日々など、ビッグな逸話の数々に引き込まれる。仕事におけるアイディアのきらめきと迅速な判断力も見ていて爽快で、写真を見るだけでは分からない、アニー自身のスピード感を体験できる貴重な１本。

長男の呼びかけで次男と三男が集結し、父親の葬儀以来１年ぶりに顔を合わせた個性豊かな３兄弟が、列車に乗って「心の旅」に出発！　猥雑で神秘的なインドの珍道中を経て、ちぐはぐだった３人の絆がしっかりと結ばれていく…。『ライフ・アクアティック』から３年。日本にもファンの多い（もちろん私も）ウェス・アンダーソン監督の最新作。本作の前に短編のおまけ付きで、三男とナタリー・ポートマン扮する恋人のエピソードが前振りとなり、本編へと繋がっていく。この導入もいいし、映像も美術も音楽もユーモアも、あらゆるセンスのよさに脱帽の傑作。

マリアンヌ・フェイスフル演じる野暮ったい主婦、マギーは孫の手術費用を稼ぐために職を探すが思うように見つからず、仕方なく夜の世界へ。家事でもこなすように淡々と業務に挑み、意外にも男性の支持を集めてゆく（業務の内容はタイトルからご想像を）。ご近所に噂され、息子に「そんな仕事はやめてくれ！」と、泣きわめかれても、取り乱さずにどっしり。同時にふわふわ感を漂わせ、孫への大きな愛を体現する姿には、おばあちゃん特有の滑稽さとかわいさがあふれていて、笑いとじんわりと暖かい気持ちをもらえる。

人を怖がらせることが趣味という古本屋の長男、照男（荒川良々）と、どこまでもお人好しの幼なじみ、サラリーマンの久信（岡田義徳）。漫然と毎日を過ごしていた30歳前の男２人が、ひどく不器用で美人のあかり（木村佳乃）に心ときめき、意欲が湧く、が…。ピースな風貌、スパイシーな演技が魅力の個性派俳優「ヨシヨシ」の待望の主演作は、大人計画でコラボしてきた藤田容介監督が彼のために構想したというコメディ。緻密な演出で練り上げたユルさ加減が、ツボを押さえて気持ちいい。そんなに思い通りにならなくても大丈夫、な気分になれそう？

闇社会で暗躍する男たちと彼らを取り巻くセクシー美女群、ドラッグ、ニセ札、銃撃、そして裏切り…。王道をいくモチーフを散りばめた、スタイリッシュなフレンチ・ノワール。特筆すべきは俳優陣か。『ピアニスト』で線の細い大学生を演じてカンヌの主演男優賞を受賞したブノワ・マジメルが、でっぷりとした体型を作り、貫禄を見せる。かと思えば、『ベティ・ブルー』のキレた演技がどうやら本物だったと思われるベアトリス・ダルは、闇社会を牛耳る帝王の情婦役でセクシーな裸体も健在。目に突き刺さる残酷なシーンがあるので、ご注意を。

只今も毎日更新の超人気（半）実話ブログ小説が映画化された。1979年、とあるひなびた田舎町を舞台に起こる、“イタズラ命”の悪ガキ高校生７人と、それを受けて立つひとりの駐在さんの丁々発止の攻防戦。『時効警察』シリーズの塚本連平監督が、70年代の小ネタ満載、テンポ良くかっ飛ばす痛快青春劇はじつに爽快！　主役のママチャリを演じる市原隼人を筆頭に若手俳優陣は弾けまくり、妙な駐在役の佐々木蔵之介の芸達者ぶりにお腹がよじれるぅ。若者の心の闇が深刻な昨今、ストレス発散がギリギリ許された当時のユルさ加減が懐かしい…。

カリフォルニアの油田を次々に採掘し成功を手にするものの、どす黒い欲望と憎悪にとりつかれ転落していく男、プレインビューの生き様を描いた物語。石油、家族、宗教など、複雑に絡み合ったテーマをRADIOHEADのジョニー・グリーンウッドによる音楽やアンダーソン監督らしさ爆発の鮮やかな映像が盛り上げる。周囲の人々がダニエル・デイ＝ルイス演じるプレインビューに平伏しつつ距離を置こうとするなか、一見完全な敗北者のようでいて実はじわじわと彼を追い込んでいく、イーライを演じたポール・ダノが放つ異様な存在感からも目を離せなくなること間違いなし。

武将にして茶人、出世欲と物欲のあいだで葛藤する古田織部が主人公の異色の戦国マンガ。信長、秀吉、家康、利休ら、それぞれの理想の「美」をときに熾烈に、ときに静かに交錯させ、同時に数寄、茶の湯、名物とは何かを説く野心作だ。強烈な人物造型はもちろん、大胆な仮説に基づく「本能寺の変」、天下一茶人決定戦ともいうべき「北野大茶湯」、長谷川等伯による「草間彌生」（？）など、見どころは尽きない。「のべえっ」「コバアッ」「はにゃあ」「ズドキュッ」「ガニッ」などなど、器を表現する織部の奇妙な擬音も楽しい。

『KIDS』などで、とことん不器用な若者を描いてきたハーモニー・コリン監督の新作。マイケル・ジャクソンになりきって暮らす主人公が、ひょんなきっかけからチャップリン、エリザベス女王、あるいはマドンナとして生きる「同士」と共同生活を始めることになる…。おとぎ話のような設定だが、適当に繕って生きられないがゆえに、他の誰かに存在を託す登場人物の姿は切実で、とくにサマンサ・モートン演じるマリリンの繊細さには胸がジリジリ。物語と並行で描かれる尼僧のスカイダイビングの寓話との距離感もつかず離れずで美しい。

『輝ける青春』などの音響を手がけたイタリアのサウンドデザイナー、ミルコ・メンカッチが事故で失明してから夢を見つけるまでの物語。逆境におかれた子供が、くじけそうになりながらも明るい未来を作ってゆくというストーリーはありがちかもしれないが、ミルコ少年が身の回りの音を録音して物語を作る楽しさを発見してゆく過程が本当に楽しそう！　わくわくした気持ちが伝わって、習慣や決まりごとで固くなりがちな頭と心にガツンと響く。好奇心やひらめきや躍動感をちょっぴりチャージしに行こう。

ミニマルで少し不器用なデビューから、立派なミュージシャンに成長してきたNo.9こと城隆之。５作目は、リミックスなどあれこれ入れてやや過剰な感じがするが、当初よりかなり複雑な構図は確かに成熟度と完成度が高い。しかし、ひとつだけ決定的な欠点がある。２曲目、名曲「Canon」のリミックスだ。自慢の曲らしいが、「全体に合わなくても売れるため収録したヒット曲」という商業戦略がNGというよりも、１曲目を聴いて期待が高まったところで、クラシックをポップス風にアレンジした「エレベーターミュージック」的な（長い！）曲は、完全に雰囲気を壊してしまう。

作り込んだものから、（おそらく）偶然捉えられたものまで、驚かされる、ニヤリとさせられる、あるいは考えさせられる写真が100枚。撮影者はアマチュアもいるがプロのほうが多く、中平卓馬や森村泰昌らビッグネームも含まれる。それぞれに編著者による200字足らずのコメントが付けられ、これがまた心憎いばかりにツボにはまる。動画ではなく瞬間だからこそ脳裏に刻まれる。ナレーションではなく文章だからこそ印象が深い。個人的には、旧ソ連の女性４人を撮った北島敬三作品が「すごい」と思った。雄大な構図の中に「写真史」が感じられる。

日本屈指の交響楽団が不況で解散し、食い詰めた団員たちが謎の老指揮者・天道に呼ばれ、１ヶ月後の演奏会に向けて再結集。「指揮者はオーケストラの敵」と言い放つ主人公たちだったが、すぐに天道の才能に圧倒され、その導きによって自身の才能を（再び）開花させていく。各奏者の課題とキャラが簡潔かつ丁寧に描かれる一方で、次第に怪老人・天道の正体とその本当の目的が明らかに。手塚治虫文化賞受賞作『神童』につづき、乾いたユーモアを交えつつ、シリアスな展開を淡々とつづる作者の手腕がいかんなく発揮されたクラシック漫画。

『海を飛ぶ夢』のハビエル・バルデムが超几帳面で冷酷な殺人鬼を演じ、アカデミー賞助演男優賞に輝いた本作。バルデムのほかにも、トミー・リー・ジョーンズ演じるベル保安官がどっしりとドラマを支え、大金欲しさと好奇心ゆえに追跡劇に巻き込まれる男、ルウェリンの不器用さもやるせなさをそそる。逃げ方や追いかけ方のアイディアとタイミングが絶妙で恐怖に震える２時間なのに、笑えるシーンばかり思い出すのは、決してバルデムの髪型がへんてこだから…という理由だけではないはず。必死な人間の滑稽さ、たんと見届けて。

老いて死の床についたアンは、封印していた過去の記憶がふと蘇り、思わず「ハリス！」と口にした。知らない名前に驚く娘たち。40数年前、親友ライラの初恋の相手、ハリスと激しく切ない恋をしたが、そのために傷つけた人たちへの悔恨に苛まれていたのだった…。現在のアンを演じるヴァネッサ・レッドグレイヴ、同じくライラを演じるメリル・ストリープの豪華共演は見応え十分！　また24歳の歌手を夢見るアン役、クレア・デインズも聡明で存在感がある。 原題『Evening』が示すように、海に落ちる美しい夕陽に人生の終焉の輝きを映しだす。

「マイナス１」とは「完成品-１」という意味であり、「カラオケ」という言葉の誕生以前から欧米圏を中心に使われていた由緒正しき言���である。この６枚組ビートルズ・カラオケ集は、我が国のビートルズ研究が世界有数の水準であることを示す好例でもある。三声でハモる曲でジョージのパートだけ歌いたいといったニーズすら満たすため１曲ごとに様々なマイナス１が収録されている。各曲をビートルズはどうハモっていたか、どう弾いていたか（今なお明かされていないだけに）、貴方のこれまでの解釈とどちらが正しいか吟味するのも楽しいだろう。

40歳にして自分探しのために脱サラし、漫画家を目指す男が主人公。父と娘がいる家庭や、年下ばかりのバイト先で、それなりに肩身の狭い思いをしつつ、男は夢を諦めきれずに、というより、突如生まれた目標に向かい、ときに邁進ときに迷走する。自信とヌルさが入り混じるタイトルから想像できるように、その図太く、だらしなくも、憎めない姿が、滑稽であると同時に哀愁を誘う。が、一方では、担当編集者にことごとく原稿をボツにされるうちに、「なぜ漫画なのか？」などというラディカルな問いが飛び出すから油断ならない。名作の予感。

脳梗塞が原因で全身不随を患ったフランス版『ELLE』の元編集長、ジャン=ドミニク・ボビーが左目の瞬きだけで書き上げた自伝の映画化。彼自身の視界を再現することによって、こちらまで主人公の身体に入り込み、人生を体験しているような気分に。彼の思いを察しようと、アルファベットを読み上げる周囲の人々の声が耳に心地良く、それに対する心の声は気が利いている。様々な時間と場所を飛び回る自由な想像力を、キラキラとした映像に昇華させたジュリアン・シュナーベル監督ら、作り手の「蝶」を夢見る心意気にも感嘆！

1966年に行われた『９つの夕べ──演劇とエンジニアリング』はパフォーマンスによるインターメディアのイベントだ。そのひとつが『Variations VII』。ナム・ジュン・パイクは、ドキュメンタリーの中で、ケージとチュードアにとってのみならず、最高のライブエレクトロニクスのコンサートだったと述べている。記録された音ではなく、その瞬間に生起する音をマイクロフォンや電話回線を通じて生け捕り、すべてを可聴化し、組織化するためにエレクトロニクスを活用したケージの巨大な実験を、21世紀の私たちはどのように聴くだろうか？

写真は、日々情報として消費され、記憶のメディアとして利用され、芸術としても受容される。つまり自他の体験や事象を共有するためのコミュニケーションの道具として、言葉同様に不完全だが必要不可欠なメディアとして流通している。本書は、報道写真を中心に、受け手がイメージのインパクトだけで思考停止することなく、写真に写る／写らない事象の意図や意志を、どこまで批評的に復号（デコード）し、判断を下すことができるのかを問うている。意外に書かれていない、イメージのリテラシーに関する問題提起に、蒙を啓かれた思いがする。