REALTOKYOピックアップ:本・CD・DVD
2008年4月〜6月発売/掲載分
バーデン・バーデンの夏【BOOK】
スーザン・ソンタグがロンドンの古本屋で発見したことによって、本書の存在は世界に広く知られることとなった。ソンタグの言葉を俟つまでもなく、この小説の魅力は物語の何事かよりも、その文体自体にある。ドストエフスキー夫妻の物語と、現代の「私」の物語による複数の声が、句点のほとんど無い文章で続き、ダッシュによって分岐と結合を繰り返す。徐々に読者はメタファーの坩堝に溺れ、気がつけば、波状に押し寄せる「愛」「悲しみ」「人生」というような言葉で説明しなくてはならない物語の掉尾に一気に漂着する。

レオニード・ツィプキン 著 新潮社
¥1,995 2008年5月23日発売 ISBN: 978-4105900663
エンジェル【DVD】
主人公、エンジェルは多感な思春期のエネルギーを創作につぎ込み、若くして作家として成功する。豪邸、ステキな画家との結婚と、欲しいものを手にしてゆく姿はまるでシンデレラだが、この映画はあいにくディズニーではないので、戦争に出かけた王子様がやさぐれる、お城は広すぎて寒いなど、問題が続発…。監督は、厄介者の女性を描いたら天下一のフランソワ・オゾン。人生と夢について皮肉なご指摘がてんこもりで、一見豪華なドレスや馬車に気をとられているうちに夢見る心はどこへやら〜。

¥3,990 2008年7月2日発売 PCBE-52830
バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び【DVD】
伝説のダンサー、ニジンスキーを生み、一世を風靡した「バレエ・リュス」。世紀の興行師ディアギレフが没し、バレエは死んだと言われたが、その後も踊り続けた2つの「バレエ・リュス」があった。本作は当時の貴重な映像とともに彼らの現在を追うものだが、なんといっても登場する老ダンサーが、みな美しく愛らしい。彼らのバレエと人生への愛が画面いっぱいに溢れている。しかし当時のダンサーって、みんな本当にすごい美女! けど意外にも足が太い…。バレエの技術や美意識は時代とともに相当変わるという事実も、かなり面白く体験した。

¥4,935 2008年6月25日発売 GNBF-1231
アース スタンダード・エディション【DVD】
火山爆発やグランドキャニオン的なものではなく、動物ドキュメンタリー映画である。弱肉強食場面はいずれも流血まで見せぬセンスの良さ。チーターにゆっくりと首筋を噛まれてもだえる鹿の超スロー映像は何ともなまめかしい。それもそのはず、秀逸なTVドキュメント『プラネット・アース』(BBC・NHK共同制作)と共通する監督&スタッフ陣だ。「制作5年、撮影日数2000日、ロケ地200ヶ所以上」なる数字まで同じで、事実、「吉野の桜の開花」などは両作品に登場する。温暖化への警鐘も大切だが、使い回し素材の明確化も大切だ。

¥3,360 2008年6月27日発売 GADY-1312
Sao Paulo Underground: The Principle of Intrusive Relationships【CD】
シカゴのポストロックシーンの中心的な人物、ロブ・マズレクが組んだ、Chicago Undergroundのブラジル版とも言えるバンド。当初の2人に新たに加わった2人のパーカッショニストによって、さらにリズムが際立つ2枚目のアルバムが完成した。サン・ラ的なカオスで始まる本作は、ロブのコルネット演奏がドラムに押しつぶされるかと思ったら、次第に人間と機械、混沌と秩序の可能性を探る曲が展開していく。サンバとロックとフリージャズの異種の伝統の衝突から、「感情的」と「ストイック」の間を行き来しながらリスナーを魅了する音楽が生まれた。

¥2,415 2008年6月18日 日本先行発売 AST-JP 2 / HEADZ 119
HARMONIES【DVD】
音楽家の二階堂和美とテニスコーツのさやによるユニット「にかスープ&さやソース」の各地でのライブやレコーディング風景、インタビューを映像におさめたドキュメンタリー。注目したいのは、シミュレーションというよりは音をつくり出す作業をしているかのようなリハーサルや、家の中で壁や物をたたきながら遊んでいる日常の風景。予定調和でなく、即興の要素をとり込んで音を出すということの面白さが存分に描かれている。それでいて、ライブという非日常ステージでの奇跡的な瞬間もきちんと押さえてあるのがにくい。監督は元宮正吾。

¥3,500 2008年5月7日発売 ASIN:B0014FJOZ2
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 通常版【DVD】
14歳の少年が人型兵器のパイロットに任命され、謎の巨大生物“使徒”と戦うことに──社会現象ともいえるブームを呼んだアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が、約10年ぶりに「序・破・急・?」の4部作として蘇る。本作はTV版第6話までを最新デジタル技術を駆使して再構築している。たんなるリメイクやダイジェストとは異なるクオリティはもちろん、新展開を予感させる演出、設定、キャラクターの微妙な変化も要注目。昨年劇場公開され、上映終了後に拍手が起こった話題作の序章をDVDで(追)体験しておきたい。

¥4,935 2008年5月21日発売 KIBA1526
その名にちなんで 特別編【DVD】
ロシアの文豪に由来する「ゴーゴリ」という、変わった名前を持つインド系アメリカ人2世の青年と、家族の絆をめぐる物語。同名の原作はジュンパ・ラヒリのベストセラー小説で、ピューリツァー賞を受賞した短編集『停電の夜に』とともに、新潮社から和訳が出ている。原作に感銘を受けた後に映画を観ると、がっかりさせられることが常だが、今回は違った。製作も手がけた『サラーム・ボンベイ!』のミーラー・ナーイル監督が、在NYインド人女性という共通項もあってか、原作の繊細な筆致を損なうことなく、臨場感たっぷりに映画化している。

¥3,990 2008年6月6日発売 FXBCE-32304
サラエボの花【DVD】
シングルマザーのエスマは、12歳の娘サラに父親はシャヒード(紛争の殉教者)だと伝えていたが、実は誰にも言えない悲痛で忌まわしい秘密を抱えていたのだった……。1974年サラエボ生まれの女性監督、ヤスミラ・ジュバニッチの長編第1作で、ベルリン国際映画祭金熊賞ほか各国の映画賞を総なめに。娘を大きな愛で包み込む母親役、ミリャナ・カラノヴィッチはクストリッツァ作品の常連。貫禄の演技を見せるが、これがデビューとなった娘役のルナ・ミヨヴィッチも負けていない。少年のように中性的で多感な少女の、母親との葛藤を繊細に演じている。

¥5,040 2008年6月6日発売 ALBSD-1070
ユゴ 大統領有故【DVD】
1979年のパク・チョンヒ(朴正煕)大領領暗殺事件をベースに、その仕掛人や巻き込まれた人々の姿をブラックユーモアたっぷりに描いたフィクション。元大統領遺族の要請によりソウル地裁が上映禁止にしたシーンが、韓国では黒く塗りつぶされた状態で公開されたが、日本では無修正版で上映されることに。独自のシニカルな視点で社会を観察し、風刺を織り込んだエンターテインメントを作るイム・サンス監督の面目躍如的な作品。常に物議をかもすが、それも監督冥利だろう。次はなにを素材に作ってくれるのか、ファンとしては楽しみに待ちたい。

¥5,040 2008年6月4日発売 OPSD-S794
Leighton Craig: 11 Easy Pieces【CD】
この作品を聴いた後に、主役の楽器であるCasiotone MT40を知ったらかなり驚くはずだが、この画像を見てから聴くと、その響きが変わってくる気がする。チープな機材でのホームレコーディングの典型的な作り方だが、幼いころからピアノを学んだ実力派ミュージシャンがこのオモチャから引き出す音とボリューム感はすごい! Cluster/Harmoniaなどドイツ電子音楽の先駆者にも通じる、素朴でプレイフルなメロディやイーノ的なサウンドペインティング、「手作りグリッチ音楽」とも言える小曲などが、作家のセンスと機械の多彩な表現力を見事に見せてくれる。

チャプター27【DVD】
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は全26章。ジョン・レノン射殺犯が事件を起こすまでを描くこの映画のタイトルは、その新たな最終章を意味する。犯人は『ライ麦畑』の主人公との奇妙なシンクロニシティを50以上も発見し、ジョン射殺の啓示とした。撃った直後も現場でこの本を手にじっと立っていたというその混沌とした脳内を、200時間以上に及ぶ犯人インタビューを基にシミュレートする。アメリカ政府のマインドコントロール説を示唆するドキュメンタリー映画『PEACE BED アメリカVSジョン・レノン』と併せて観てほしい1本。

¥4,935 2008年5月23日発売 ASIN: B0015HPZMA
俺たちフィギュアスケーター【DVD】
スペシャル・エディション
独特な世界観で美の基準が保たれ、ツッコミの余地を観ている側に与えない雰囲気のあるフィギュアスケート界に、男同士の種目があったら…。という、ちょっぴりロックな精神が感じられる物語。『バス男』でキモ可愛さを抜群に発揮していたジョン・ヘダーが主演し、米国コメディ映画界の超売れっ子、ウィル・ファレルとペアを組む。必死に練習(コント!?)を重ねた2人が挑む、男同士ならではの技やジャンプには、メダルの行方を超えた興奮と感動が! みなさま、ハンカチのご用意を。笑いすぎで涙が止まらない。

¥3,990 2008年5月23日発売 DWBF10141
僕のピアノコンチェルト【DVD】
計測不可能なIQを持つ神童ヴィトスは、ピアノの腕前も天才的。飛び級して12歳で高校生になったものの、教師をコケにする生意気な態度がクラスメイトから疎まれ、周囲との不協和音が生じる。「ふつうの人になりたい」と願う彼は、ある作戦を決行するが…。1992年生まれの若きピアニスト、テオ・ゲオルギューが主演し、教育熱心な母親との葛藤や孫想いの祖父との交感など、俳優ではないプロフィールが信じられないほど、たっぷりと魅せてくれる。『ベルリン・天使の詩』の天使役、ブルーノ・ガンツが演じる祖父は、いぶし銀の存在感だ。

¥3,990 2008年5月21日発売 PCBG-51110
カンナさん大成功です! 特別版 (2枚組)【DVD】
美声を活かして人気歌手の「声」として活動するカンナは、体重95kgのおデブちゃん。ある日、恋い焦がれるプロデューサーの本音を聞いてしまい、頭のてっぺんからつま先まで全身整形を施した彼女は、別人の新人歌手としてデビューする……。整形大国、韓国らしいストーリーだと思うなかれ。同名の日本の漫画がベースである。毎日4時間の特殊メイクで巨体に変身して臨んだ、キム・アジュンの映画初主演作。整形手術の是非はどうでもよくて、ポジティブなエネルギーと、アジュン本人が歌っているという、驚異の歌唱力に圧倒されること間違いなし。

¥3,980 2008年5月8日発売 DLV-F3612
よんでますよ、アザゼルさん。【BOOK】
下品で卑劣でアホ過ぎて、最高にプリチー!! 街の探偵事務所のクセモノ探偵が、ストーカーとかの難事件を、召喚した悪魔の力を借りてミゴト解決!? その悪魔の力ってのが、強制脱糞や性不能って、ろくでもないセクハラだったりスカトロだったり…。シモネタ繰り出すその最低な悪魔たちが、2頭身のカワイイ系キャラもんってのもどうなんだか? いやきっと、欲に溺れる現代人たちをカワイさで罠にはめ、ドクの効いた世界でこらしめようなんて狙いは微塵も無いかやっぱ。どこかゴキコンの臭いもするが(しないか?)、とにかく憑かれてみれば。

久保保久 著 講談社
¥560 2008年4月23日発売 ISBN: 978-4063522228
変身ものがたり【BOOK】
悪夢とかシュールとかではなく、飄々淡々とした筆致で描かれる異世界。けれど、ゾワゾワっと皮膚感覚も掻き立てられる。少女コミックを席巻する「純」なものからは、かなり遠いリアルを秘めて。だから巻末の対談相手は川上弘美がふさわしい。部屋の間取りを主役とした『東京膜』、AV界に紛れ込んだ女流監督のタマゴが奮闘する『キナコ・タイフーン』、女子中学生の第二性徴な日常を綴る『ラウンダバウト』と、バリアントな作風で物してきた彼女。まだまだ新人と思っていたらいつの間にかペコ・ワールドを拓き、確かに散文詩な領域に入り込んでいる。

渡辺ペコ 著 秋田書店
¥560 2008年4月28日発売 ISBN: 978-4253157360
巨匠たちが夢見た建築
—GREAT EXPECTATIONS【DVD】
映像の中の建築家は、都市の問題と自分の豊かな可能性を語る。例外は、虚栄心を満足させたい友に応えて建てたと言うロヴァーグだろうか。宙に浮く球体都市を考えたフラーや、集合墓地の墓穴の深さまで指定したニーマイヤーなど、計画のみを含む10以上の建築を、住人の肉声やキッチュな動画も交えて捉えた歯切れのいい映像は、20世紀に私たちの目前にあったはずの「深刻な都市問題」の実体と夢を、静かに浮かび上がらせる。GREAT EXPECTATIONSは、「(巨匠に)大きな期待(をしたけれど)」というほろ苦さを含むようだ。同時発売『壺中─北欧建築と日本のフォルム』。

¥3,990 2008年4月28日発売 TWDS-1004
ひろしま【BOOK】
写真家の石内都が、世界最大級の傷跡に寄り添うように撮影した写真集。広島平和記念資料館に保管されている約19,000点の被爆死した人の遺品などから、肌身に触れていたワンピース、ブラウス、シュミーズや下着といったモノたちにピントを合わせた。背負った影を透過して浮かびあがるシルエット、鮮やかな色彩、仕立てのディテールから、味わったことがないはずの、あの夏の日の朝の空気を感じてしまう。別冊に添えられたポーランドの詩人シンボルスカの詩、井上ひさし、柳田邦男、鷲田清一の書き下ろしエッセイも、ぜひ読んでほしい。

石内都 著 集英社
¥1,890 2008年4月25日発売 ISBN: 978-4087804829
レディ・チャタレー【DVD】
ヘア無修正完全版
D.H.ロレンス原作『チャタレイ夫人の恋人』の4度目の映画化。1950年に伊藤整による邦訳が出版された当時は「猥褻か芸術か」で裁判になり、57年に有罪が確定した。あれからちょうど50年。紆余曲折を経て今では完訳を読むことができる。映画の中ではボカシがちらちらと舞い踊り、興ざめどころか笑えたのだが、DVDは劇場公開時より30分長い無修正完全版! メガホンを取ったのはフランス人のパスカル・フェランで、フランス語を話すコニーと森番メラーズ(映画ではパーキン)に冒頭ちょっと戸惑うものの、美しい作品に仕上がっている。

¥3,990 2008年4月25日発売 BIBF-7587
FUCK【DVD】
英語を母語とする人なら、タイトルを見ただけでドキッとしてしまうだろう。この4文字語の語源、微妙なニュアンス、正しい使い方などを、言語学者からポルノ俳優まで、その道の識者(?)が語り尽くし、資料映像を���えてしごく真面目に検証するドキュメンタリー。「使うべき」「使わないべき」とそれぞれだが、みんなが一家言を持って熱く語っているのがおもしろい。これに該当するパワフルな言葉が日本語にないという事実に気付いて、ちょっとさみしい気持ちになった。ムカッときた時、ビックリした時、思いきり叫んですっきりする言葉があったら日本も変わったかも?

¥3,990 2008年4月25日発売 ASBY-4030
中国の植物学者の娘たち【DVD】
スペシャル・エディション
孤島にひっそりと息づく植物園を舞台に、禁断の愛を描く。孤児院で育ったミンは、薬草学を学ぶために訪れた植物園でアンに出逢う。互いに惹かれ合っていく2人の娘の前には、厳格な植物学者であるアンの父と軍人の兄が立ちはだかり、恋はやがて悲劇へと…。葉の1枚1枚にまで神経を研ぎ澄ませた映像美が植物に宿る精霊を感じさせ、水、光、泥、湯気を使った女性の情愛表現も見事! フランス在住の戴思傑(ダイ・シージエ)監督が、前作『小さな中国のお針子』で文革時代の禁書への疑問を描いたのに続き、またも中国社会のタブーとされるテーマに果敢に挑む。

¥4,935 2008年4月25日発売 ACBF-10562
Mathieu Ruhlmann + Celer: Mesoscaphe【CD】
理想的なアンビエント音楽には、環境に完全に溶け込む、あるいは全く新しい環境を生み出す、という2種類があるとしたら、こちらは後者の典型だろう。1969年、メキシコ湾流で資源調査を行った潜水艦「ベン・フランクリン号」に捧げる架空のサントラだが、実際に潜水艦が拾ってきた音などのフィールドレコーディングが主役。その中からたまに現れる楽器の旋律など「人間的な要素」との組み合わせは、まるで自分が潜水艦で航海しながら、歴史的な出来事のストーリーテリングを聴くような体験となる。閉所恐怖症の方はご遠慮ください。

オープン価格 2008年5月7日発売 KK014
Art Space Tokyo【BOOK】
東京にあるアートスペースとアートシーンを紹介する英語ガイドブック。原美術館、21_21DESIGN SIGHT、ギャラリー小柳、ギャラリーエフなど、定番の美術館から少しマニアックなギャラリーまで、独自の視点により選ばれた12スペースのラインナップが面白い。外国人にとって役に立つアクセスマップはもちろん、関係者のインタビューやキーパーソンのコラムなどがふんだんに盛り込まれ、読み物として楽しめる。RT編集長もジャーナリズムに関するコラムで登場! 2色刷りのシンプルながら凝ったデザイン、高橋信雅による挿絵もいい感じ。

$30 2008年4月発売 ISBN: 978-0974199559
港大尋: 声とギター【CD】
作曲家で、ピアノ、サックス、パーカッションなどの奏者でもある港大尋が、バンド「ソシエテ・コントル・レタ」の活動とは別に展開してきたプロジェクトがCDに。ボサノバをベースに、サルサやサンバのリズムも取り入れた12曲が収録されているが、その10曲が港の作詞作曲によるもの。ギターを弾き、歌う。シンプルな構成の中に、ユニークな音楽家だと思っていた彼の、詩人としての横顔が見え隠れ。歌声はのびのびと空高く飛来していくようで、この季節に聴くとなにしろ心地いい。なんて多才なんだろうと嫉妬さえ覚える1枚。5/17にはライブも。

¥2,625 2008年5月1日発売 OOZE-0088
アオイホノオ 第1巻【BOOK】
80年代初頭、あだち充、高橋留美子など、人気誌で活躍する若手漫画家たちを上から目線で応援、あるいは一方的にライバル視する美大生がいた。根拠なき自信と不安のあいだで揺れるこの若者は、大学1回生にしてアニメや映画の道に挫折し、憧れの先輩に失恋する。そして失意のどん底で漫画に希望を見いだすのだが──。冒頭で「フィクションである」と断じられる本作だが、主人公の心理や個々の逸話は、20年以上前の設定とは思えないほどリアル(かつ痛々しい)。ギャグの体裁をとりつつ、一旗あげようともがく美大生を活写した青春漫画だ。

島本和彦 著 小学館
¥540 2008年2月5日発売 ISBN: 978-4091512680
Senor Coconut: Around The World【CD】
「スイート・ドリームズ」「キッス」「コルコバード」、そしてこのジャケット! この人、いったいどんな世界に生きてるんだろう?? クラフトワークやYMOのカバーでおなじみのセニョール・ココナッツが、05年の『フィエスタ・ソングス』に続いて、80年代のヒット曲をラテン風にアレンジした夏コンピ第2弾を発表! そろそろ飽きるはずだが、センスとユーモアは相変わらずで、今回はエレクトロニクスを増したサウンドが、これまた魅力的だ。というか、こっちがオリジナルだと思ったりするほどウマイ! 国内版には「Yellow Megamagic Mix」も収録されて嬉しい。

¥2,480 2008年4月23日発売 XECD-1101
アート情報誌『ART iT』第19号【BOOK】
今回の特集は、ポートレート写真を対象に、「変身する欲望」に迫る内容。森村泰昌+やなぎみわの対談を巻頭に、中韓の「変身作家」インタビュー、アジア=パシフィックの注目作家探訪ツアーと続き、彼らの作品について宮台真司が論考する。特集以外では、東京にも上陸予定のシャネルの「モバイル・アート」展速報や、この秋開催の横浜トリエンナーレ参加アーティスト紹介など。連載では津村耕佑の「妄想オーダーモード」に、アートユニットChim↑Pomの紅一点、エリイが登場。ウェブも合わせて、日英バイリンガルです。
株式会社アートイット / 紀伊國屋書店
¥1,400 2008年4月17日発売 ASIN: B0016MX4V8
長江哀歌【DVD】
悠々と流れる長江の上を走る船上の風景から物語は始まる。男が船を降り、16年前に別れた妻子が暮らしていた場所に向かうが、そこはすでにダムの底に沈んでいた…。万里の長城以来といわれる中国の一大国家事業、長江三狭ダム建設を背景に、ダイナミックな変化を遂げる途上で失われつつあるもの、変わらないものに光を当て、人々の生活を活写する。この哀切あふれる表現で1970年生まれというプロフィールが信じられないジャ・ジャンクー監督。昨年のヴェネツィア国際映画祭でサプライズ上映され、金獅子賞をさらったのも納得の力強い作品だ。

¥5,250 2008年4月25日発売 BCBF-3194
大型美術館はどこへ向かうのか?─サバイバルへの新たな戦略【BOOK】
ニューヨーク近代美術館長のグレン・ラウリィ、テート館長のニコラス・セロータなどが一堂に会し500人を動員した、2007年2月に森美術館で行われたシンポジウムの記録集。コレクションの増加に従って美術館を拡張しなければならないこと、新たな表現形式の誕生に伴いコレクションの方法も再考しなければならないことなど、どこにとっても必然的な問題を率直に語っている。本ではさらに4名のインタビューを加え、日本及びアジアの事情に引き寄せている。もはや手本はなく、皆が一緒に考えることで美術館が本当に人々のために活用される場となるのかも。

¥2,940 2008年4月17日発売 ISBN: 978-47664150205
転々【DVD】プレミアム・エディション
直木賞作家、藤田宣永の小説の映画化。「一緒に東京を歩いたら借金はチャラにしてやる」という奇妙な提案をする借金取りの男と、借金を抱えたダメな大学生が、井の頭公園をスタートし、阿佐ヶ谷、新宿、上野…と“転々”としながら、霞ヶ関を目指し、ひたすら東京の街を歩く。オダギリジョーと三浦友和演じるイケてないコンビは、背中に孤独な現代人の哀愁を漂わせて味がある。コメディの鬼才、三木聡監督は今回もキレ味のよい小ネタを連発しながら、変わりゆく人の心と東京の風景を丁寧にフィルムに焼き付け、小説とはひと味違う散歩にしている。

¥4,935 2008年4月23日発売 GNBD-1479
マイティ・ハート —愛と絆—【DVD】
スペシャル・コレクターズ・エディション
パキスタンに滞在し、現地取材中の『ウォール・ストリート・ジャーナル』特派員の夫とフランス人ジャーナリストの妻。最後の取材に出かけた夫がテロリストに誘拐され、妊娠中の妻は捜査を開始した…。2002年にカラチで起こった事件の真相を妻マリアンヌが綴った著作に感銘を受け、ブラッド・ピットが製作。アンジェリーナ・ジョリー主演で、ハリウッドのスーパーカップルのコラボレーションが話題だが、監督に起用されたイギリスの実力派、『ウェルカム・トゥ・サラエボ』のマイケル・ウィンターボトムが手腕を発揮し、実話ベースの硬派なヒューマンドラマが完成した。

¥4,179 2008年4月4日発売 PPWH-113085
シッコ【DVD】
マイケル・ムーアが、米国の破綻している医療保険制度を徹底的に解剖。その実態に冷や汗が。米国の社会の歪みが、米国の外だけではなく、国内の中流、下流の社会に確実に蔓延していることがよく分かる。フランスやイギリスやキューバにも取材に出かけた監督が、他国と比較して米国の医療保険制度がいかにひどいかということに気づいていく過程で見せる表情が、映画を作っていく上での策略や野心がすっかり抜けた「無力な人」の顔。日本の制度についてさえ、いまいち分かっていないくせに、「アメリカ人って、大変ね」と、ため息が出ます。

¥3,990 2008年4月4日発売 GADY-1278