初期から現最新作の『ルナシー』（2005）まで、DVD全10巻がメーカーを越えて１セットに。マリオネットや手製のオブジェと実写の混合、舌、食べ物、鍵、引き出しといったおなじみのモチーフなど、初期短編から長編までの結びつきもわかる。私たちは本能に翻弄されるばかりか、意志だと思っているものも制度にかなり操作されていることを実感。触覚的なおぞましさが際立つが、個人の自由を獲得するためのタフな闘いであり、その執拗さに笑うと同時に敬服する。メイキングやインタビューも楽しい。2005年に逝去した、制作パートナーであった妻エヴァの力の大きさも感じられる。

種子田郷の前作『Sketch 2006』に続いてわりと早く、いろんな理由で比較せざるを得ない新作が登場。今回ももちろん微細な「音楽」ではあるが、ジャケットも表現しているように、より有機的でカラフルな仕上がりで、ミクロな音からマクロの世界が広がる。と言っても、高速な早送りのように結局はかすかな成分に圧縮され、聴きながらちゃんと���凍するためにはかなりの集中力が必要。20分の前作がこの点でちょうど良い長さだったのに対して、今回の30分は短いようでいて、人によってはやや長過ぎるかもしれない。前作から訓練しろということか。

目覚めたらベッドに縛り付けられ、どこからか叫び声が……。といっても『SAW』シリーズではなく、松尾スズキの長編２作目です。多忙だが元気一杯の女性ライターが、気付いたらなぜか女だらけの閉鎖病棟に入院。コミカルな展開のなか、次第に明らかになる患者たちの人生はけっこう重い。映画はそんな「生きづらい人々」を温かく見つめつつ、「生きる覚悟」を冷然と求めるフシもある。なにしろ『SAW』と違い、ここでは誰も彼女たちにどう生きるか（生きないか）、のルールを与えてはくれないのだから。原作は06年度芥川賞候補になった松尾の同名小説。

身の毛のよだつ殺人シーンや衝撃的な結末はないが、幽霊は登場する古風で軽快なミステリー。『マッチポイント』ではいまいちだったスカーレット・ヨハンソンが、今回は出演もしているウディ・アレンと、本当のおじいちゃんと孫娘のような可愛らしい掛け合いを見せる。『ゴーストワールド』などの頃の「賢そうな少女」という感じを取り戻しつつ、セクシーさを忘れないあたりもさすが。劇中では完全にスカーレットのペースで、台詞の半分くらいが「もにゃもにゃ…」としぼんでいるウディだが、女優プロデュース力はまだまだ枯れない！

想像がつくと思うけれど、「Tanzmann」はドイツ語で「踊る男」という意味。名字でDJの仕事を選んだかどうかはわからないが、近年はヨーロッパ人のみならずアジア人までをも踊らせてきた彼の初オリジナルアルバムだ。13曲がノンストップに繋がる76分の本作は、そのままDJセットを再現しているようで、独ミニマル／テックハウスの第一人者なりのファンキーネスがばっちり伝わる。それだけでも魅力的だが、05年にリリースされ今は入手困難だという、彼が主宰するレーベルmoon harbourのコンピレーション付き特別日本盤は、文句なしの骨太なアイテム。

微妙に変化していくミニマルな電子音響から有機的な方向に展開してきたレーベル12kの中で、とくに多事多端な１枚。フィールドレコーディングや様々な（生／電子）楽器、声などの欠片による、ミニマルではあるが非常にスリリングな物語が広がる。「曲」や「創造」を期待してはいけない。これはそもそも「触知できる音」など、録音されたものとリスナーの間の空間をテーマにした試みなのだ。具体的な音によるメロディのヒントがそのまま浮遊していたり、どこかに消えてしまったり、そしてまた別のヒントに置き換えられる過程に吸い込まれる。

紙の良さと多彩さを世間に知らせるため、紙の名店、竹尾は89年から毎年『ペーパーショウ』（94年までは『ペーパーワールド』）を開催してきた。これは07年のショウをまとめたものだが、単なるイベント記録をはるかに超えているので発行の遅れも許そう。ショウに参加した様々なクリエーターたちのコメントや作品紹介もあって、なるほど紙で何ができるか、その多様さが伝わってくる。似たページが２つとなく、全26章の各章の扉に違う種類の紙を使ったりしているので、見て触って驚く、まさに『ペーパーショウ』の紙版だ。ウェブ上で言うのもなんだけど、紙っていいもんだ。

いかにもイギリス的な毒入りユーモアを提供するコメディユニットの、BBC製作のテレビ番組。オックスフォード及びケンブリッジを卒業したインテリメンバーが主体となり、『未来世紀ブラジル』などで日本でも人気の映画監督、テリー・ギリアムが参加していたことも有名（でも、彼はアメリカ人）。放送は69年から74年、解散して20年近く経過するが、今もなお彼らの笑いは色あせない。NHKで放送されたこともあるが、これは東京12チャンネル（現在のテレビ東京）で放送された、ファンが待ち望んだ幻の吹き替え版。今は亡き山田康雄の声も！

パフォーマンスグループ「キュピキュピ」主宰で映像作家の石橋義正がプロデュースする、マネキンドラマ『オー！マイキー』の新作。07年12月にロードショー上映され大ヒットした作品だが、初登場の新キャラも登場し、動かないはずのマイキーがなぜかダンスを披露するという、年末年始の祝祭ムード満点、いや、どちらかといえば不気味なシーンもあり、にやりとさせられる。DVDだけの特典映像として、マイキーのガールフレンド、エミリーちゃんのセクシーなダンスも収録されている。春先のこの時期に見ると、頭の中はもう桜が満開!?

両親の事故死で帰省した女優志望の長女を軸に、濃い味の一家が繰り広げる愛憎劇。次第に明らかになる「家庭の事情」は笑えないものだが、なぜかクスリとさせる展開と間のようなものをちりばめつつ、ラストのどんでん返しになだれ込む。主演の佐藤江梨子のハマり具合も、妹役の佐津川愛美の鬱々ぶりも恐ろしいが、お人好しの兄嫁を演じた永作博美（何があってもあの笑顔）が一番インパクトあり？　三島由紀夫賞最終候補作にもなった本谷有希子の原作を映像化した怪作。監督はCM出身だが、山村を舞台にした、いかにも「映画的」と言えそうなシーンが多いのも印象的だ。

ラディアンの一員にしてMosz Recordsの共同設立者、S.ネメスのソロ作。短編映画などのために彼が手がけた楽曲を集めたものだが、車など街の音で始まるからやっぱり「サントラ」、つまり映像が前提である音楽を予感させる。しかしあえて「ソロアルバム」ということで発表したのには理由がある。それぞれ事情が違う曲が集まっているが、これはひとりの優れたアーティストの音楽作品で、映像を想起させるというより、まさに「耳で観る映画」そのものだ。生とデジタル、フリーと体系の絶妙なバランスが効果的で、聴き入っているうちにあっという間に終わる34分。

20世紀初頭のロンドン。「良家の女性が仕事を持つなんて」という時代に、小さな動物たちを主人公にした絵本を作りたいという夢を抱き、ビアトリクスはスケッチを持って出版社を訪ね歩く。情熱的な編集者に出会い、ふたりは二人三脚で絵本を作り続けるが…。またたく間にベストセラーとなり、遠く海を隔てた日本でもマヨネーズのCMに出演するほど有名になったピーターラビット。その誕生秘話が、著者と編集者の関係性の変化を軸に、ピーターのアニメを交えながら丁寧に描かれる。レニー・ゼルウィガーとユアン・マクレガーの朴訥とした演技が愛おしい佳作。

美味しいヴィーガン料理（純粋菜食主義の料理）で人気のカフェエイトがお届けする、レシピ＆ティップス集の第３弾。今回は「甘いものは別腹」とばかりに１冊まるごとスイーツづくしです。もちろんどれもヴィーガンメニューで、ただしコワモテ菜食主義のススメではなく、あくまで美味しく楽しくという感じが好印象。白砂糖ではなく天然甘味料を使って味に幅を出すなどの基本から、カフェエイト流の工夫を盛り込んだ魅惑のレシピ群までが紹介されます。気軽にトライできる「Cook」編と、計量などもきっちり行う「Build」編、その日の気分で選んでみるのも一興？

『パリ・ジュテーム』でジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォーを演出した諏訪敦彦監督が、別れを決意した夫婦の心の揺れを丁寧に描く。フランソワ・オゾンの夫婦もの『ふたりの５つの分かれ路』でも、美しい演技を見せたヴァレリア・ブルーニ＝テデスキ演じる妻・マリーが、ところどころで見せる苛立ちや涙、突発的な笑い声や愛情、わがままに深く納得してしまい、ブリュノ・トデスキーニ演じる夫・ニコルの疲れ切った様子と優しさに胸が痛む。マリーが散歩がてら立ち寄るロダン美術館のシーンもとても印象的。

ボーカルとシンセサイザーによる、世界でおそらく唯一の「エレクトロ詩吟ユニット」として2005年に活動を開始。07年にはドラムスが加わり、さらにパワーアップした３人組のファーストミニアルバム。詩吟の独特の節回しを取り入れた表情豊かなボーカルが、シンセとドラムスが奏でる心地よいアンビエントサウンドによく映えている。即興的に20分近く展開される楽曲もあり、フルアルバム並みに楽しめるお得な１枚。サウンドと同様にイマジネーションをかき立てられるジャケットデザインは、エンライトメントの三嶋章義によるもの。

大学入学のため仙台に引っ越してきた主人公は、風変わりな隣人からいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけられる。目的は、同じアパートに住むブータン人留学生に贈る広辞苑を盗むこと……。最初の30分は眠くてどうしようかと思ったが、ある瞬間「え!?」と気付いてからぐんぐん引き込まれた。原作は主人公同様、大学入学時から仙台在住のミステリー作家、伊坂幸太郎の同名小説で、さぞかし映像化するのが難しかろうと思われていたもの。現在と過去が複雑に交錯し、切ない恋模様が浮かび上がる仕組みだが、２役を演じる瑛太がとってもチャーミング！

モーツァルトの同名オペラの映画化。魔法の笛に導かれて出会う２人のラブストーリーで、当然ながら台詞はすべて歌。演じるは世界最高峰の人気オペラ歌手たちというから、気合いの入った作品である。なのに、どこか奇妙な香りが漂うのはなぜか。時代設定を第一次大戦下に変えて作っているからである。「主人公が塹壕の中で敵軍の毒ガスから逃げる場面」と「夜の女王が城の上空をCGで飛び回る場面」が共存する風変わりな世界は、オペラ好きだけでなく、モンド好きの方にもおすすめ。

４組のワケありカップルのドタバタが、オムニバス形式で描かれる。ちょっぴり甘えん坊だが、素直に明るさを失わず、恋に振り回される登場人物たちは、『昨日・今日・明日』のソフィア・ローレン×マルチェロ・マストロヤンニなどにも通じる愉快さ。片思い、浮気、別離など、ドロドロしがちな恋愛模様をコミカルに可愛く描いたジョヴァンニ・ヴェロネージ監督は、本人自身も様々な愛の修羅場をくぐり抜けてきたのだろうか、タイトルであり、劇中にも登場する架空のハウツー本からの引用もやけに説得力がある。

2008年最初の特集は、ART iT初の誌上展覧会スタイルでおくる「浮遊するジェネレーション：進化する日本アートII」。軽快さや儚さ、ユーモアを漂わせつつも、気概溢れる表現を展開する15組の作品を紹介します。さわひらきインタビュー、田中功起×木村友紀の対談も収録。ほか、小谷元彦が表紙と巻頭ロングインタビューに登場し、津村耕佑は「切り画」作家の福井利佐を迎え衣装制作。巻末クロスジャンル記事群「Ti TRA」では、しりあがり寿の連載が新章突入！　ウェブも合わせて、日英バイリンガルです。

かつて都内の手芸店で働いていた著者は、宣伝のために様々なモノを作っては店のブログで紹介していたのだが、それらは明らかに「販促」の範囲を逸脱していた。どうにも面白すぎるのだ。特に刺繍は、自身でもホームページを作るほどの入れ込みようで、ファミコンを思わせる「８ビットな感じ」がなんともたまらんのだった。そんな彼がプロのクロスステッチデザイナーになり、本を出した。働くクルマ、恐竜、ゾンビ、旧型のゲームボーイ、昆虫。そこにあるのは「新しい刺繍のカタチ」、そして何より「男子の放課後」である。

とある部屋に集う喪服姿の男たち。自殺したＢ級アイドル、如月ミキの一周忌追悼会なのだ。ファンサイトで知り合い、ハンドルネームで呼び合う個性的な面々がミキちゃんを偲び、事件の真相に迫るとき、５人それぞれが彼女の死に関与したことが明らかに。真犯人は誰なのか？　回想シーンを織り交ぜながら密室で展開されるシチュエーションコメディ＆サスペンスだが、ほろりと涙もあり。男たちを演じる小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之の、むせ返るような濃い演技対決が見もので、ラストまで飽きさせない脚本と演出にも拍手喝采。