クラシック音楽のリアリティは、「過去・現在・未来」それぞれの時間への関わり方にあらわれる。当代一流の作曲家、ピアニストのひとりである野平は、博物館的バッハでもなく、20世紀後半の様式としてのピリオド（作曲当時）解釈でもなく、これまでの膨大な音楽に関するデータベースへ、「未来」と入力してサーチしたような演奏でリアリティを生み出した。ピアノ、オルガン、チェンバロ（一部コンピュータ処理）を駆使し、20世紀の既成概念を華麗に逸脱した自由奔放な知性。クラシック音楽の21世紀らしさは、野平流のバッハから始まる（のかもしれない）。

「編集って何をする仕事？」。この問いを携えて行われた11人の伝説的編集者へのインタビューと、彼らの偉業を追う多数のビジュアルで構成された力作。会社員として、フリーランスとして、はたまた社長としていまも現役を貫く東京の編集人たちの言葉と行動は、業界人ならずとも楽しめそう。雑誌、書籍、映画パンフなど、各々が愛するメディアを駆使しながら行われる「東京の編集」とは——。自身『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長として活躍してきた著者（RTにも「TOKYO仕掛人日記」連載中）による入魂の編集仕事でもある。

ペネロペ・クルスをはじめとする６人の主演女優陣が全員同時に最優秀女優賞を受賞し、昨年のカンヌ映画祭を賑わしたペドロ・アルモドバル作品。人生の複雑さを内に秘めて、まっすぐ生き続ける彼女たちの美しさは圧倒的だが、苦しみ、悲しみの原因となっているはずの男性の描かれ方がわりと単純。そのせいか、ペネロペ演じる娘と母（ワケあり）の確執の理由が明らかになる、クライマックスへの盛り上がりがイマイチな気もしたが（メロドラマを求めすぎかしら）、話の展開なんてどうでもよく思えてしまうほど美しい女たちの涙と笑顔に拍手！

展覧会終了から10ヶ月、単なる図録を超えた集大成的作品集として、否、これ自体をひとつの大竹作品として待ち続けたファンも多いだろう。やや待ちくたびれてしまった人も、1152ページ（＋CD2枚付）でおくる怒濤の内容には往復ビンタのような衝撃を受けるはず？　約2000にのぼる全展示作品の図版を収録したほか、『新潮』に連載されたエッセイ「見えない音／聴こえない絵」なども英訳付き掲載。とかくそのボリュームが話題だが、畏怖すべきはその中身であり、また自ら『全景』と呼んだこの大仕事の後も、画家が創作の手を一向に緩める気配がないことである。

心理カウンセラーによる短編小説が原作で、映画の原題は『女、チョンヘ』。郵便局に勤める主人公はかつて離婚を経験し、今はひとりで暮らしている。うんざりするくらい地味で単調な毎日の繰り返しだが、あるとき捨て猫を拾い、少しずつ生活に変化が現れる……。どこにでもいそうな29歳の女性の日常を全編通して手持ちカメラで追いかけ、リアルな空気感が生まれた。このデビュー作を引っさげて各国の映画祭におもむき、高い評価を受けたイ・ユンギ監督。鬼才キム・ギドクやホン・サンスに続き、新たな作家主義監督が韓国から誕生したのは喜ばしいかぎり。

閉塞した郊外社会に暮らす人々が、大人を生きていくことに戸惑い、暴走。不倫、性犯罪、主婦のコミュニティ、差別、アメフト、銃など、米国のどの田舎町にもありそうな題材が、シリアスに描かれる。重くなりすぎないのは、ケイト・ウィンスレット、ジェニファー・コネリー、パトリック・ウィルソン…と、ギリシャ彫刻のように美しいキャストが、映画全体の、実は鬱屈とした空気を、昼のメロドラマのように愉快に変えてしまうから。大人たちが泣いたり怒ったり大騒ぎしていても、いたって冷静で包容力のある子供たちにも注目だ。

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督の新作。ブルックリンのサロンを舞台に全編SEXシーンの連続だが、アクロバティックなポーズにエロみはゼロでむしろドタバタコント。傷みも、頑なさも、もどかしさも人一倍の人物たちが辿り着くのは、誰のためにも残されている、愛情に満ちた肌の触れあいという“サンクチュアリ”。９.11後のぎくしゃくとした社会で、傷ついた精神を他者を受け入れることで回復しようとする人々へ贈るソフトドラッグのような映画だ。力の抜けた音楽、端正なアニメーションもグッとくる。

『浮き雲』『過去のない男』に続く、アキ・カウリスマキ監督による敗者三部作の最終章。主人公のコイスティネンは真面目で一途だが、やたらに強がりでツキがない。職場では仲間はずれ、おしゃれなバーに出かけてみれば、冷たい視線を投げかけられ、やっと恋に落ちたと思えば…。すぐ身近に実はやすらぎが待っていても、わざわざ哀しい思いをする方を選んでしまう男のロマンと孤独にちょっぴりイライラ、同時に胸キュン間違いなし。北欧の寒さにちょっぴり近付くこの季節、公開時よりぐっと、登場人物の心情に寄り添えるかもしれない。

弟からの電話をきっかけに、20年前を回想する30歳の薫。小学４年の夏休み、家出した母親と入れ代わりに、謎の女ヨーコさんが自転車でやってくる。タバコすばすば、男勝りの彼女に薫は次第に惹かれていく……。文學界新人賞を受賞した長嶋有のデビュー作が原作で、『雪に願うこと』の根岸吉太郎監督がメガホンを取った。竹内結子のスクリーン復帰も話題になったが、人生の試練を経験したからなのか、吹っ切れたようなすがすがしさが豪快で自由奔放な役柄にはまり、とてもチャーミング。

自分が知る彼女の表情は対面しているときだけのものであり、それ以外の彼女の表情を知ることはできない。同時にそれは、彼女から彼にも当てはまることだろう。この写真集が写し出すあるひとりの女性が持った多様な表情は、写らなかったさらに多くの表情の存在を際立たせる。そうして彼女が「私」を探したように、彼（＝写真家）もまた「私」を探していたはずだ。特殊な事情を感じさせる「私」写真集であると同時に、個別のエピソードに収束しない、交換不可能な視線が交錯する。誰もが共有できる不安の周辺……。

パレスチナの若者ふたりが自爆テロの実行犯に志願。爆弾を身体に装着しテンションが極限まで高まったとき、イスラエルの警備に阻まれ退却、出直すことになる。これを機に自己を見つめ直し、相棒と議論を戦わせる主人公。「殺し合いの連鎖になるだけだ」「いや抵抗が続けば何かが変わるはず」「何も変わらなかったら？　別の手段があるのでは」「それは他の誰かに任せるさ」…。ジョン・レノンは『イマジン』で「何かのために人を殺したり、何かのために自分が死んだりする必要なんてない」と説いた。洗脳（信心・恨み）の深さとの綱引きは続く。

雷にびっくりして逃げ出した、友だちの黒いこぶたを探すロジーナ。女の子のハナに出会い、ふたり（１匹とひとり）の冒険が始まる…。写真家で映像作家の茂木綾子による、初めての写真絵本。茂木が暮らすスイスのコルビエール村を舞台に撮り下ろした写真には、湖や草のにおいを感じるみずみずしい風景と、ハナを演じる愛娘とこぶたの愛くるしい表情がぎっしり。あっちこっち寄り道しつつ、ぺちゃくちゃおしゃべりしつつ進む物語は、ページをめくる度に微笑ましく、ふたりを抱きしめたくなる。自分用にはもちろん、誰かにもプレゼントしたい１冊。

「駄美術」とは「ちっぽけで、どこか怪しく、クスッとおかしい駄菓子のような作品」のこと。テレビ東京系『たけしの誰でもピカソ』に登場するや、ひっそりと、しかし確実にアート好き（ただし、やや珍しいタイプの）を興奮させ続けてきたアートユニット「現代美術二等兵」の作品集がついにお目見え。「よっちゃんイルカ」「自由の毛蟹」など、ダジャレまみれの作品群に加え、解説、スケッチ、年譜なども収録。個人的には、暮らしの中のあらゆる「赤いもの」をアイツに見立てる某シリーズがお気に入り。アイツが誰かはぜひ書店で確かめて。

自身の生地である鳥取の砂丘をフィーチャーした写真で知られる植田正治。海外でも「Ueda-cho」（植田調）として注目された、画面構成力の素晴らしさにグッと来た人も多いだろう。本書は、そんな植田が遺したネガの中から、妻の紀枝を被写体とした作品をまとめたもの。２人が結婚した1935年から1950年代までの未発表写真に収められている妻の姿は、静かな佇まいの中にも、植田との関係性を濃厚に匂わせていて最高にチャーミング。同じ夫婦モノとして荒木経惟の『センチメンタルな旅』と見比べてみるのも面白い。

イママンとは「今、マンガ家さんに会いにゆきます」の略。「劇団、本谷有希子」の主宰であり、先頃は芥川賞候補になるなど、文学ジャンルでもその才能を認められつつある本谷が、実にゆるいトークでマンガ家のこれまたゆるい一面を浮かび上がらせてゆく。純粋に笑えて、しかも「もし聞き手が違ったらこうはならなかっだろうな」と思わせる展開が多く、本谷ファンよりも、各マンガ家のファンが喜びそうな気配。次回ゲストを『いいとも』形式で紹介していくなかで、ギャグ、ホラー、エロなどジャンルを超えたマンガ家の実態に触れられる。

かつて取材先でたまたま見つけたモビールは、日頃から粗野＆無骨でならす私でさえも思わず唸り、動揺するような可愛らしさに満ち満ちていた。ハイクオリティな切り絵技術と、これまでお目にかかったことも無いようなデザイン。そしてDNAレベルでのセンスを感じさせる色遣いの数々。展示品を両手に抱え込むも「サンプルなのでお売りできません」と言われたときの落胆はいまも忘れない。本書ではデンマークのモビール作家がデザインした作品を作り方付きで紹介。一風変わったクリスマスの飾りにもなりそうだし、これはもう作るしかない！

いまどきのコドモたちにとって、お正月最大のイベントと言えば、凧揚げ、羽根つき、独楽回し…じゃなくて「お年玉」、早い話がマネーです。いつの間にか貰う側からあげる側へと転身したオトナの皆さん！　ここはひとつ中身よりも包みにこだわってみてはどうでしょう？　電話帳並みに分厚い本書（全592ページ！）には、小さいながらもコクのある「ぽち袋」の世界がぎっしり。和風からアールデコ、エロからファンシーまで、とにかく大量の図版が簡潔な説明と共に収録されているところがなんとも素晴らしい。ぽちサイズの凝った装幀も必見。

ジプシーの音楽、愛、哀しみを撮り続けているトニー・ガトリフの新作。アーシア・アルジェントが、恋にやぶれても情熱的に進み続けるタフで弱虫な女性を熱演している。気迫がこもったジプシーのようでいて、ちょっと安っぽい都会育ちの女性らしさも忘れない、複雑な存在感に脱帽。ガトリフ自ら作曲し、トランシルヴァニアのミュージシャンたちが演奏したという音楽が、これまた素晴らしい。相手役を演じるビロル・ユーネルも素敵だし、友人マリー役のアミラ・カサール（スーパーモデル出身）の今後の活躍も気になるし、ドキドキが止まらない２時間だ。

BergbahnやMontageなどの名義を使い分け、ブレイクビーツジャズからクリックハウスまで、様々な音楽を作るヤマミチアキラ。自らのレーベルからの６枚目のCDでは、境界を知らない独創力の全てを見せる。もうひとつのプロジェクトであるElectroacoustic Jazz Quartetやゲストのジマニカらが参加し、さらにアフロビートや意外とヘビーなロックといった要素も加わる。驚くほど幅広い内容だが、結局は後ろにひとりのアーティストがいるので、過去に出たリミックス集より一貫性がある。タイトルとそれぞれの曲に曖昧な作家名を使わず、素直に本名などで統一した方がリスナーが混乱しないと思うけど、聴くときはジャケットを見なきゃいい。

倒壊した建物、散乱する食糧の空き箱、畑を耕す人……。1974年岡山県に生まれ、アムステルダムに移住して５年になる写真家が、93年に訪れたネパールのボカラからサラエヴォ、ベオグラード、ラゴス、エルサレム、ロサンジェルスなどを訪れて撮影した写真とテキストをまとめたフォトエッセイ。１本の道でつながれた写真群が、ページをめくる度に、世界の出来事が地続きであると教えてくれる。それは、「石野卓球と戦争」など、身近なことに引きつけようとする文章からも感じられる。生きる意味より、まず生きなきゃならない国の人々の強さと自由さに頭を殴られる。

原因不明の病で尾びれを失い、うまく泳げなくなったイルカのために、若き獣医は前例のない人工尾びれの開発を目指す。沖縄の美ら海水族館における実話をもとにした物語。不自然に動物を擬人化せず、もの言���ぬイルカとの奮闘を通し、むしろ人々が何かに気付かされる、という描き方に好感が持てる。『デスノート』の松山ケンイチが今回は日焼けした熱血漢を演じ、館長役の山崎努ほか味のある役者が脇をかためる。飼育員役の坂井真紀は、全編に登場するフジ（実際にこの出来事の中心になったイルカ）に最優秀女優賞を、とコメントしている。

一作ごとに驚くべき愛の形を提示し、真の愛の姿を厳しく問い続けるキム・ギドク。次なるテーマは、“永遠の愛”だ。深く愛するあまりに男の心変わりを怖れた女は、いったん男の前から姿を消し、再び現れたときには「別人」になっていた。美容整形手術を受けて顔を変え、名前も変えた女。男はその魅力に惹かれながらも、消えた昔の女の影を追っている。女は、今の自分か、昔の自分か、男に選ばせ、男の愛が不変かどうかを試す…。と、ここまででも十分驚きの展開だが、天才ギドクはここでは終らせない。果たして男の取った仰天の行動とは？

ビルバオ・グッゲンハイム美術館などの設計で知られる、現代建築界の巨匠にして傾奇者（？）の素顔に迫るドキュメンタリー。合成写真かと見まがうような奇天烈な作品群が、いかなる思想とプロセスとで生み出されるのかを垣間見ることができる。模型を前に「ここはやはり波をひとつにしよう」とか言うとスタッフが即対応、あのクネクネした外観が決定されていくさまは圧巻。デニス・ホッパーらも、彼の才能を愛する証言者として登場する。本人の人間味ある語り口に親近感も湧くには湧くが、やはり凡人には窺い知れない何かを濃厚に漂わせつつ幕。

同時発売の２枚組『Size and Tears/Alice in Wonderland』のやや難しい内容に比べ、こちらの方が扱いやすい作品だ。 Alva Notoに通じるようなリズムトラックに牧歌的な和音が乗る曲で始まるが、厳密なビーツとMonolake的なスペース感の組み合わせが、そこから様々な方向に展開する本作を要約している。後半はだんだんドラマチックになっていくが、８曲目以降の曲を聴いて「映画のサントラみたい」だと思った頃、実はアルバム全体がサントラのように多彩かつ一貫した、物語性もあるものだと気づく。歌ものとインストもの、浮遊したアンビエントとファンキーなポップス、聴きやすい曲と不穏な曲の不思議な旅に出かけよう。

素晴らしい嗅覚と料理のセンスを持つ主人公のネズミ、レミーが、パリにある５つ星レストラン「グストー」にもぐりこみ、才能を発揮する。アニメならではの不思議な設定や、少々単純すぎるストーリーも、ピクサーの3Dアニメーション技術にかかると、とても自然に見えてしまう。だから登場人物に感情移入するだけでなく、「ネズミの権利や感性も、ちゃんと伸ばしてあげなくちゃいけないんだな」などと、頭が混乱状態になる可能性も!?　ネズミはネズミ、人間は人間。この映画を鑑賞する間は、そのことを忘れてしまいそう

「ドラム、ヴィジュアル、ドラム」の略であるバンド名の通り、２人のドラマーが映像を通じてゲームを操作しながらリズムを生み出す。言うまでもなく、同時に目と耳で楽しむものだ。できればその場で体験するのが一番だが、「戦い」がそのまま収録されているこのDVDがあれば、ゲーム感覚のドラムバトル（あるいはその逆？）を家でも再生できる。メイキングの映像もあって、ライブほどではないがかなり楽しい。が、CD付きというのは、内容が違うにしても納得できない。音楽性にも注目してほしいというのはわかるが、視覚的な部分をカットすると物足りないわりに値段が高過ぎる。

モロッコでアメリカ人の観光バスに一発の銃弾が。肩を撃たれた女性の夫（ブラッド・ピット）の動転と怒り。近くに病院はなく救急車も来ない。彼らの留守中に子供をアメリカで預かっているメキシコ人乳母は、別の理由で人生が妙な方向に進み始める。一方、銃撃はモロッコの少年のいたずらだった。彼が撃ったライフルは、以前日本人が別のモロッコ人にプレゼントした品である。その日本人（役所広司）は今は東京で聾唖の娘���菊地凛子）と暮らしている。離れた地の異なる言語による複数のドラマも、神の眼を通せばひとつの大きな物語だと体感できる１本。

兄のアンソンは妻を亡くし、難病の息子を抱えている。妹のキョンジャは芸能界入りし、映画の主役に抜擢されるが……。大ヒット作『パッチギ！』から２年。1968年の京都から1974年の東京枝川に舞台を移し、キャストを一新して作られた第２弾。冒頭からパッチギ（頭突き）連発でバイオレンス描写はそのままだが、若かりし兄妹の父親が故郷の済州島から戦地ボルネオに向かう回想シーンが挿入されるなどスケール倍増、「愛と平和」のメッセージ色が濃厚で、壮大になりすぎた感じも。井筒監督は「寅さん」のようにシリーズ化したいと語っていたが、はたして？

蟲師という虚構の職種でわかるとおり、この映画は舞台設定を「100年前の日本」と公言しつつも架空の風習や衣装が溢れている。この奇妙な世界の監督を務めるは大友克洋。自作ではない漫画作品が原作だというから、よほど監督欲が刺激させられたのだろう。この場面をやりたかったな、とすぐにわかる幾つかのビジュアルイメージの迫力。森や土蔵の中に静かに息づくアニミズム（自然神崇拝）をアニメ的解釈で実写化しようとするアプローチ。まさしくポップなミクスチャー感覚に溢れる21世紀日本の映画である。

あのダイアナが衝撃の事故死を遂げたとき、王室の冷たい対応に国民から激しい非難の声があがった。就任４ヶ月の若き英国首相ブレアはそのときどう立ち回ったか。この映画は綿密な調査に基づいて描いていく。平たく言えば「長男夫婦がＷ不倫の末に離婚した」ことを町内全員が知っている「名家」の大奥様に、町会長が「元嫁の訃報に弔意を示すことこそ家の名誉のために肝要」と進言する話である。王室といえど身内の会話は庶民と同じで吹き出す場面も。昔『漫画讀本』で見た「天皇家そっくりの庶民一家の団欒を描いた連作」を思い出す

元Bush of GhostsやDeterminationsのYossyとIcchieによるユニットの2ndアルバム。前作と同様、ここにもエレクトロニクスと生楽器が絡み合う音楽が詰まっている。クラブポップやレゲエなど、より多彩な要素を取り入れた本作に、２人の特殊な味がよく出ている。竹村ノブカズのようなフレーズや、日本人の女の子らしい発音で歌った英語の歌詞などもあるのに、想像力豊かなアレンジのおかげでまったく子供っぽく聞こえない。チープなシンセサウンドと太いリズム、そしてハモンドオルガンやトロンボーンといった、不思議な組み合わせによって作り上げられるラウンジーな感覚が気持ちいい！

４周年を迎えリニューアル。巻頭特別記事では、大規模個展『(C)MURAKAMI』直前の村上隆に直撃取材です。特集「東京発：進化する日本アート」は、注目の『六本木クロッシング2007』『SPACE FOR YOUR FUTURE』展や、東京の東側を活性化させる運動体「CET」をフィーチャー。参加作家対談や、仕掛人が語る見どころ紹介も。他に、首都圏新世代ギャラリーも総力紹介します。連載陣では津村耕佑がピアニストの向井山朋子を迎え衣装制作、また新登場のクロスジャンル記事群「Ti TRA」も。ウェブも同時に充実化、いずれも日英バイリンガル。

パリ20区内のあちこちで繰り広げられる、１話約５分、全18話の短編集。各国からの監督、俳優陣は超豪華だが、予備知識なしで観て「おぉ〜」「おっ？」「オォーッ!!」と驚くのも一興か。恋愛話だけでなく、親子、移民、旅行者などを通して描くパリでの愛、またはパリへの愛。実人生同様、数分間では何かが解決されるわけもない。しかし、だからこそ、５分後にも続く物語への予感や、味わい深い余韻が楽しめる。やはりヌーヴェルヴァーグ時代にこの街を舞台に撮られたオムニバス『パリところどころ』のプロデューサーが出演しているのも、微笑ましい。

たとえば自宅では絶対に体験できない圧倒的な高音質や轟音。あるいは演奏者が確かに今この場でコマンドを実行し、音楽を生成していると感じさせてくれるリアルタイムの緊張感。ラップトップ以降のライブが追求してきたこれらの特徴をパッケージメディアで再現しようと試みたのが本作だ。CD以上の高音質（48kHz）かつ収録時間175分の限界仕様で、ライブ空間の高揚した空気が再現される。渋谷慶一郎、EVALA、GOEM、PAN SONIC、灰野敬二、そして彼らと「共演」するエキソニモの映像。全てが圧倒的なテンション。

屋根修理の仕事で訪れた海辺の家で不穏な会話を盗み聞きし、謎の「出稼ぎ」に出かける主人公。到着先で彼に課せられたのは、闇社会のギャンブルの「駒」になることだった。と書くと、またシチュエーションホラー？　と思うかもしれないが慌てずに。全編モノクロで、無声映画の名作かと勘違いしそうな静かなトーンは、派手なスリラーとは異質のもの。その静謐さこそが曲者で、「あり得るかもしれない恐怖」を描く硬派な佳作となった。なお、監督はまず物語の核となるシーンのみを撮影し、これを使い出資者集めに成功。彼自身は賭けに勝利した。

想像力に富んでいるがシャイな男、ステファンが隣人のステファニーに恋をした。不器用なりに一生懸命アピールするが想いはうまく伝わらず、現実と夢の境界線が分からなくなった彼は次第に奇行に走るように…。と、あらすじだけ書くとこわ〜いストーカーの物語にもなりそうだが、監督はビョークのPVや『エターナル・サンシャイン』のミシェル・ゴンドリー。子供の工作のような楽しいアイディアをちりばめて、とことん無邪気に恋する男の妄想ワールドを描いた。片思いって、なんか危険なんですね。

ブラジルの農村に生まれ、スーパースターになった兄弟デュオ「ゼゼ・ヂ・カマルゴ＆ルシアーノ」の誕生秘話を熱く描く。音楽をこよなく愛する楽天家の熱血父ちゃん、フランシスコに音楽を教え込まれた長男ミロズマルと弟エミヴァル。７人の子供を抱えて貧しさに涙する母の姿に一念発起、家計を助けようとバスターミナルで路上ライブをして拍手喝采を浴びる。怪しげなエージェントに見出され、広大なブラジルを渡り歩く旅芸人になった２人だが、前途は多難だった…。 俳優初経験の２人の少年、とりわけ兄役のダブリオ・モレイラが素晴らしい！

子供のころクラスにひとりはいた気の良い巨漢、的イメージもあるフォレスト・ウィティカーだが、本作では「こんな人クラスにいなくてイイです！」と震え上がる狂気の演技が炸裂。オスカー主演男優賞を獲得した。彼が演じるのは実在したカリスマ性満点のウガンダ大統領、イディ・アミン。スコットランド出身の若者（この人も結構アブない）を語り部役に配して物語は展開する。ふたりの故郷が共に抱える英国支配の歴史も背景に、恐怖政治に陥る国家の人間模様を描いて圧巻。史実に材を得た小説の映画化であり、現大統領の許可により全編現地ロケが実現した。

Spekkレーベル初のビートものは、イスラエル電子音楽の開発者の1stアルバムだ。エキゾチックなミクスチャーかと思えば、用心深い音のデザインと配置という点は、むしろイギリスのこの手の第一人者、SNDが作り出すエレガントかつ地味な雰囲気に近い。日本の音楽界において、良質のノンビート音楽で独自の地位を構築してきたレーベルなのにもったいないと思ったりもするが、今まで多少の物足りなさを感じていた人はうれしいだろうし、これほどクオリティが高ければSpekkの新たな展開にも期待できそう。今回も超豪華なパッケージだ。