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035:from Tokyo - 『東京フィルメックス』の新たな船出
松丸亜希子
Date: December 24, 2009

2000年12月に始まった『東京フィルメックス』が10周年を迎えた。「新・作家主義」を掲げ、東京のオルタナティブな映画祭として開幕したちょうどそのころ、REALTOKYOもオープンしたばかりで、その年は参加することが叶わなかったが、翌年の第2回から通うようになった。

 

初日に開催されたシンポジウムは3部制で5時間に及んだ。第1部には北野武も登壇 | REALTOKYO
初日に開催されたシンポジウムは3部制で5時間に及んだ。第1部には北野武も登壇

立ち上がった当時、すでに回数を重ねていた東京国際映画祭(TIFF)は、劇場公開が決まっている作品を少し前倒しで安く観られる映画祭という色合いが濃かったと思う。2002年に「アジアの風」部門がスタートするまでは、個人的にTIFFで観たい作品はとても少なかった。それに対し、作家性の強い作品、特にアジアの若手監督の作品を紹介し、配給に繋げていくことを目指してフィルメックスが誕生。ラインナップは配給が決まっていない作品が中心で、ここで見逃したらもう二度と出合えないかもしれないレアな作品がほとんどということもあり、映画ファンを惹き付けている。

 

節目となった今年は、過去の受賞作品を上映する『第10回記念 東京フィルメックスの軌跡〜未来を切り拓く映画作家たち』、トークベント『水曜シネマ塾〜映画の冒険〜』が先行開催され、開会式前日の11月21日には『第10回記念シンポジウム〈映画の未来へ〉』が明治大学アカデミーホールで行われた。休憩を入れて5時間という長丁場で、北野武、黒沢清、是枝裕和、寺島進、西島秀俊らが登壇。映画を愛して止まない人たちによる映画談義で華やかな幕開けとなった。

 

受賞者(の代理人)を囲む審査員のメンバーと林加奈子ディレクター(左端) | REALTOKYO
受賞者(の代理人)を囲む審査員のメンバーと林加奈子ディレクター(左端)

そして、11月29日までの9日間にわたり、『ジャン=ピエール・メルヴィル監督特集』としてドキュメンタリーを含む14本、『ニッポン★モダン1930』として日本映画27本のほか、特別招待作品10本、監督デビュー作3本を含むコンペティション作品10本が上映された。今年はとにかくフィルメックスの10周年を見届けようと、私はだいぶ前から作戦を練り「フィルメックス休暇」を取ることに決めていた。会期中はほかの仕事を入れずに、ひたすら映画を観ようと。結果、12作品を観ることができた。

 

審査員特別賞を受賞したバフマン・ゴバディ監督の『ペルシャ猫を誰も知らない』。これまでクルド人の物語にこだわってきた監督だが、ポップスの演奏が禁止されているテヘランに生きる若きミュージシャンたちを描いている。ドラマとドキュメンタリーの際をなぞる本作からは、公の場所で演奏できないフラストレーションと、音楽で表現したいというエネルギーと情熱がほとばしる。「テヘランの現実を見てほしい。この作品により、私はもうイランでは映画を作れないかもしれない」と、来日できなかった監督からメッセージが届いた。

 

ダブル受賞のヤン・イクチュン監督からビデオメッセージが届いた | REALTOKYO
ダブル受賞のヤン・イクチュン監督からビデオメッセージが届いた。作品中のキャラと大違いで茶目っ気たっぷり

グランプリと観客賞をダブル受賞という、フィルメックス初の快挙を成し遂げたヤン・イクチュン監督の『息もできない』。父親のDVがきっかけで妹と母親を失った男と、母親を喪失した機能不全の家族を支える女子高生が出会い、互いに安らぎを見出していく。韓国的な要素を持ちながらも普遍性のある力強い作品だが、崔洋一審査委員長ほか審査員のメンバーも観客も絶賛した本作を、私は観ることが叶わなかった。というのも、同時期開催の関連イベント『韓国映画ショーケース2009』と観たい作品がかち合ってしまい、配給が付いていた『息もできない』はいずれ観られるからとあきらめたのだ。最終日のプレス会見で、本作がグランプリ受賞と聞いたときの私の落胆ぶりといったら。その夜すぐ宣伝会社に連絡し、最初のプレス試写で観てようやく溜飲が下がった。

 

グランプリ&観客賞受賞作『息もできない』 | REALTOKYO
グランプリ&観客賞受賞作『息もできない』
配給:ビターズエンド、来春シネマライズほかでロードショー

今年の総入場者数は22,039人。昨年の16,836人を大きく上回り、過去最高の動員を記録したが、フィルメックスが歩んだこの10年間、ライフスタイルも変わり、映画をめぐる状況にも変化の波が押し寄せた。前述のシンポジウムで市山尚三プログラムディレクターが語っていたが、邦画が洋画の興収を抜き、シネコンの増加でスクリーン数が増える一方でミニシアターは減り、アート系作品を手掛ける配給会社は苦境に立たされているという。良質な映画を紹介することで若い映画ファンを育て、観客のリアルな反応を配給会社に伝えることで劇場での上映につなげていくという、映画祭の役割はますます重要だ。

 

映画の未来と希望を見据えるフィルメックスがひとつの節目を迎え、また新たなフェーズに入って私たちを魅了してくれるよう、これまでの感謝とこれからの期待を込めてサポーターズクラブに入会した。それぞれの国の現実を伝えようと闘う監督たちを応援するフィルメックスを、私も応援したい。林加奈子ディレクターと市山尚三プログラムディレクターの選択眼を大いに信頼しているし、こんなアットホームでチャレンジングな映画祭が東京にあってよかったと心から思う。しかし今年は『韓国映画ショーケース』との同時期開催により、いずれも魅惑的なラインナップなだけに悩ましい9日間だった。1週間ずらすだけで、気持ちが楽になる人がかなり増えると思うのだがどうだろうか。

寄稿家プロフィール

まつまる・あきこ/1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中の1999年にREALTOKYO創設に携わり、副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。